2014年2月22日土曜日

【西東詩集58】 Der Winter und Timur

【西東詩集58】 Der Winter und Timur


【原文】

DER WINTER UND TIMUR

SO UMGAB sie nun der Winter
Mit gewaltgem Grimme. Streuend
Seinen Eishauch zwischen alle,
Hetz' er die verschiednen Winde
Widerwärtig auf sie ein.
Ueber sie gab er Gewaltkraft
Seinen frostgespitzten Stuermen,
Stieg in Timurs Rat hernieder,
Schrie ihn drohend an und sprach so:
Leise, langsam, Unglueckselger!
Wandle du Tyrann des Unrechts;
Sollen länger noch die Herzen
Sengen, brennen deinen Flammen?
Bist du der verdammten Geister
Einer wohl! ich bin der andre.
Du bist Greis, ich auch, erstarren
Machen wir so Land als Menschen.
Mars! du bists! ich bin Saturnus,
Uebeltaetige Gestirne,
Im Verein die schrecklichsten.
Tötest du die Seele, kaeltest
Du den Luftkreis―meine Luefte
Sind noch kälter als du sein kannst.
Quälen deine wilden Heere
Glaeubige mit tausend Martern―
Wohl, in meinen Tagen soll sich,
Geb es Gott! was Schlimmres finden.
Und bei Gott! dir schenk ich nichts.
Hör es Gott was ich dir biete!
Ja bei Gott! von Todeskaelte
Nicht, o Greis, verteidigen soll dich
Breite Kohlenglut vom Herde,
Keine Flamme des Dezember.


【散文訳】

冬とチムール帝

さてこうして、このように、冬が彼等を取り囲んだ
暴力的な憤怒(自然の猛威)を以て。すべての人々の間に
その凍りの息を撒き散らしながら
冬は、様々な風を追い立てて
人々みなに逆って、その風を吹入れる。
冬は、その霜の散った嵐に
強権を与えて、人々を支配し
チムールの中枢の部屋の中に降りて来て
チムールに脅しを掛けて叫び立て、そして、こう言った:
静かに、ゆっくりとな、不幸者めが!
お前、不正の暴君よ、彷徨(さまよ)うがいい
もっと長く、心臓という心臓が
火を放ってお前の炎を焼き、燃やさねばならないと言うのか?(そうしなければ、まだ解らないのか?)
お前は、碌でもない亡霊たちの
一人であるに間違いない!わたしも、同じ別の亡霊だ。
お前は、白髪の老人であり、わたしもそうではあるが、凝固させるのだ
わたしたちは、国土も人間たちも。
お前は、火星だ!わたしは土星だ
悪事をなす星々だ
同盟を組めば、最も極悪非道の星々だ。
お前は魂を殺し、冷たくせよ
空気の圏を―わたしの空気は
お前が冷たくあることができるよりも、もっと尚冷たいのだ。
お前の野蛮な軍隊は
幾千もの拷問で、信仰あるものたちを苦しめる
そうさ、わたしの日々では、
なるべくして、最も悪いものが実現することになっているのだ。
そして、神に誓って、わたしはお前には何も贈ることはないのだ。
わたしがお前に与えるものが何かを神に聞くがよい。
そうだ、神に誓って!死の寒さから
何も、おお、白髪の老人(チムール)よ
竃(かまど)の幅広い石炭の灼熱が、お前を守ることはないのだ
12月のどんな炎も。



【解釈】

ここからは、新しい巻、新しい書に入ります。題して、Buch des Timur、チムール帝の巻です。

チムールという人物は歴史上の人物ですので、説明の煩を避けて、Wikipediaの引用に留めます。:http://ja.wikipedia.org/wiki/ティムール

この詩を読むと、やはり前回までの箴言詩は箴言詩としても、それはゲーテの本領ではないということがわかります。この詩は、詩になっていて、詩であって、やはり素晴らしい詩であると思います。箴言詩の場合とは違って、言葉が苦しみを歌っていても、苦しみがなく、言葉の力が存分に発揮された言葉からなっている詩だという風に感じられます。

この詩を読むと、ゲーテは我が身をチムール大帝に譬(たと)えていることが判ります。

我が身をチムール大帝に譬えるには、それ相応の人生を歩んで来なければなりません。そうでなければ、そのような類比(アナロジー)を産み出すことができないのです。ゲーテの政治家としての人生を思うべきでしょうし、そうして、他方、その経験と知識と、いや苦労を、このように詩に変換できるゲーテの姿を思うべきでありましょう。

第8行目のRatを「中枢の部屋」と訳しました。これは、チムールの近臣の者達がいて、その者達と会議をする組織があると理解をして、inという空間の中に入って来ると歌われているので、その組織を比喩的に場所を言っていると解釈しました。そのような重要な枢要の場所にも冬は傍若無人に土足で入り込んで来る。

第12行目の心臓は、チムールの殺戮した人間のことでしょう。或いは、この心臓の意味が、生きている心臓というのであれば、それは生者達が、という意味になります。

箴言詩は苦しい詩が、こうしてみると、この詩は生き生きとして、ゲーテのこころを伝えております。

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