2014年2月12日水曜日

【西東詩集57-8】 Buch der Sprüche(箴言の書)


【西東詩集57-8】 Buch der Sprüche(箴言の書)


【原文】

WENN man auch nach Mekka triebe
Christus' Esel, wuerd' er nicht
Dadurch besser abgerecht,
Sondern stets ein Esel bliebe.

GETRETNER Quark
Wird breit, nicht stark.

Schlägst du ihn aber mit Gewalt
Yin fest Form, er nimmt Gestalt.
Dergleichen Steine wirst du kennen,
Europäer Pise sie nennen.

BETRUEBT euch nicht, ihr guten Seelen!
Denn wer nicht fehlt, weiss wohl wenn andre fehlen;
Allein wer fehlt der ist erst recht daran,
Er weiss nun deutlich wie sie wohl getan.

》DU HAST gar vielen nicht gedankt
Die dir so manches Gute gegeben!《
Darüber bin ich nicht erkrankt,
Ihre Gaben mir im Herzen leben.

GUTEN Ruf musst du dir machen,
Unterscheiden wohl die Sachen;
Wer was weiter will, verdirbt.

》DIE Flut der Leidenschaft sie stürmt vergebens
Ans unbezwungne feste Land.《
Sie wirft poetische Perlen an den Strand,
Und das ist schon Gewinn des Lebens.


【散文訳】

もしメッカに向かって
キリストのロバを追って行くとしても
それによっては、ロバは調教されるわけではなく
絶えずロバのままでいることだろう

踏みつけられた泥土は
広がりはするが、強くはならない。

お前は、しかし、力づくで泥土を打って
堅固な形式にすると、泥土も形をなす。
このような同類の石を、お前は知っている筈だ
ヨーロッパ人は、その石をピセ(足踏みによる土固め)と、呼んでいる。

自分自身を悲しませるな、お前達、よき魂よ!
何故ならば、欠けるもののない者は、他の者達が欠けているならば、間違いなく欠けているとわかるのだから。
しかし、欠けている者は、やっとこさ、そこに至るのだ
つまり、その者は、あとになって、他の者達がどのようによくやったのかを明らかに知るのだ。

》お前は幾多のひとびとに感謝しなかった
お前にかくも多くの善き事を与えた人たちに!《
だからといって、それについて、わたしは、病気になることはない
お前達の贈物が、わたしのこころの中で生きているから。

善き評判を、お前は自らになさねばならぬ
様々に、それは、物事はきっとあるであろうが
それ以上を更に求める者は、腐る。

》情熱の洪水、それは徒(いたずら)に押し寄せる
強制されない、固い土地に。《
その洪水は、詩的な数々の真珠を岸辺に投げ
そして、それは既に、人生の授かり物である。


【解釈】

第1連は、聖書のマタイ伝その他にある逸話を踏まえています。
キリスト教徒ではないわたしには不案内なエピソードですが、しかし、それを離れても、この連を理解することはできるでしょう。

ゲーテ一流の、それも宗教的な、キリスト教の逸話を利用しているだけ、強烈な皮肉の効いた箴言になっています。

日本語で近いものも幾つもあるように思いますが、豚に真珠とか、猫に小判とか、餅は餅屋とは(一寸ズレますが)、それぞれ一寸つづ、この箴言に擦っているように思いますが、どんぴしゃというものがありません。

第2連と第3連は連なっています。これも、いかなる意味にとるべきなのか。

第4連も、この通りのままの理解でよいのでしょう。

第5連のこころも、わたしにはよく解ります。感謝しないことも大切なのです。敢えて言えば。世の中は通俗的に堕して感謝に溢れているので。

第6連の最後の一行、腐るという言葉は強烈です。これも、ゲーテのアイロニーでしょう。今回の詩行は、なにか苛烈なアイロニーの色彩が強い。

最後の詩は、情熱の洪水は、固い土地に押し寄せても、無駄におわる、それほどに固い土地であるようです。その土地を前提に、詩の真珠を人生の賜物としてその岸辺に打ち寄せ運ぶ、情熱の洪水。
若者の言葉ではなく、やはり老いて、しかしなおその情熱を知っている人間の言葉というべきでしょう。




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