2014年5月31日土曜日

【西東詩集71】 Hatem2


【西東詩集71】 Hatem2


【原文】

KOMM, Liebchen, komm! umwinde mir die Mütze!
Aus deiner Hand nur ist der Tulbend schön.
Hat Abbas doch, auf Irans höchstem Sitze,
Sein Haupt nicht zierlicher umwinden sehn.

Ein Tulbend war das Band das Alexandern
In Schleifen schön vom Haupte fiel,
Und allen Folgeherrschern, jenen andern,
Als Königszierde wohlgefiel.

Ein Tulpen ists der unsern Kaiser schmücket,
Sie nennens Krone. Name geht wohl hin!
Juwel und Perle! sei das Aug’ entzücket!
Der schönste Schmuck ist stets der Musselin.

Und diesen hier, ganz rein und silberstreifig,
Umwinde Liebchen um die Stirn umher.
Was ist denn Hoheit? Mir ist sie geläufig!
Du schaust mich an, ich bin so gross als Er.



【散文訳】


来るのだ、愛する者よ、来い!わたしに帽子を巻き付けるがよい!
お前の手からこそ、ムスリムの帽子は、美しい。
アッバースも、イランの一番美しい座位の上にいても
自分の頭(こうべ)が、これ以上優美に巻き付けるのをみなかっただろう。

一個のムスリムの帽子は、アレクサンダー大王の
頭(こうべ)から美しくリボンを垂らして、落ちた帯であった
そして、その後の支配者達にも、あのその他の支配者たちにも
王の装飾として、いたく気に入られたのだ。

一個のモスリムの帽子は、我々の皇帝を飾る帽子で
ひとは、それを王冠(クローネ)と呼んでいる。成る程、名前は体を表している!
宝石と真珠よ!眼が魅了されよ!
最も美しい飾りは、いつも綿紗(モスリーン)だ。

そして、ここにあるこれを、全く純粋で、そして銀色の線条を帯びたこれを
愛するものよ、額の周りに巻き付けてくれ
一体、陛下とは何か?わたしは、その称号のことは熟知しているのだ!
お前がわたしを見れば、わたしが彼と同じ位偉大なのだから。

【解釈と鑑賞】

これが、ここでHatemと題されて詠まれる長い歌の二つ目のまとまりです。

イスラム教徒があたまに巻くターバン様の被(かぶ)り物を主題に歌った詩です。

普通の人間の被るモスリムの帽子が、愛する者の手によって巻き付けられると、王者の王冠になると歌っています。

これは、以前の何と言う詩でありましたか、ズーライカとふたりで、世界を向こうに廻して、対等に世界と均衡をとるという詩がありましたが、そのこころを写していると思います。





Sequenz an den Heiligen Geist(聖霊への頌歌):第23週 by Hildegard von Bingen



Sequenz an den Heiligen Geist(聖霊への頌歌):第23週 by   Hildegard von Bingen







【原文】

Alles durchdringst Du.
die Hoehen,
die Tiefen
und jeglichen Abgrund.
Du bauest und bindest alles.

Durch Dich träufeln die Wolken,
regt ihre Schwingen die Luft.
Durch Dich birgt Wasser das harte Gestein,
Rinnen die Baechlein
und quillt aus der Erde das frische Grün.

Du auch führest den Geist,
der Deine Lehre trinkt,
ins Weite.
Wehest Weisheit in ihn
und mit der Weisheit die Freude.



【散文訳】


あなたは、すべてを貫通する
高さも
深さも
そして、どの深淵も。
あなたは、すべてを建て、そして結びつける。

あなたを通って、雲という雲が滴(したた)る
その震動が空気を動かす。
あなたを通じて、水が、固い巌を庇護し
小川という小川は、走る
そして、大地から、新鮮な緑が湧き出る。

あなたは、また精神を導く
あなたの教えを飲む精神を導いて
遥かな彼方の中へと連れて行く
智慧が、精神の中へと吹き込み
そして、智慧と共に、悦びが吹き込む。


【解釈と鑑賞】


この詩人のことを書いたWikipediaです。

http://ja.wikipedia.org/wiki/ヒルデガルト・フォン・ビンゲン

中世ドイツベネディクト会系女子修道院長であり神秘家作曲家とあります。

神秘的、霊的な体験を繰り返しした人ですので、この詩もまた、その体験を、そうして目に見えたものを歌ったということなのでせう。







【Eichendorfの詩68】Entgegnung(邂逅)


Eichendorfの詩68Entgegnung(邂逅) 

【原文】

》Sei antik doch, sei teutonisch,
Lern, skandiere unverdrossen,
Freundchen, aber nur ironisch!
Und vor allem lass die Possen,
Die man sonst genannt: romantisch.《―
Also hoers man’s rings her schallen;
Aber mich beduenkt: pedantisch,
Sei das Schlimmste doch von allen.

Wem der Herr den Kranz gewunden,
Wird nach alledem nicht fragen,
Sondern muss, wie er’s befunden,
Auf die eigne Weise sagen,
Stets aufs neu mit freudigem Schrecken,
Ist sie auch die alte blieben,
Sich die schöne Welt entdecken,
Ewig jung ist, was wir lieben!

Oft durch des Theaters Ritzen
Bricht’s mit wunderbarem Lichte,
Wenn der Herr in feur’gen Blitzen
Dichtend schreibt die Weltgeschichte,
Und das ist der Klang der Wehmut,
Der durch alle Dichtergeister
Schauernd geht, wenn sie in Demut
Ueber sich erkannt den Meister.


【散文訳】

》古代風であれよ、チュートン(ゲルマン)風であれ
学べ、根気よく韻律を踏んで朗読せよ
友よ、しかし、ただ皮肉を以てだ!
そして、何よりも、茶番はやめだ
普通人がロマンチックと呼ぶ茶番は《
かくして、周囲には、この言葉が響き亘るのを聞く
しかし、わたしは思うのだ。それは、衒学的だと
総てのもののうちで最悪のものであれ、と言っているのだと。

神が冠を編んでやったその人は
なんでもかんでも問うのではなく
その人がそう思う通りに
独自の方法で言わねばならない
絶えず新しく、悦びの驚きを以て
美しい世界を発見するのに
その方法も実際古風のままならば
永遠に若くあるのだ、わたしたちの愛するものは!

劇場の割目を通じて、しばしば
不思議な光と共に、それはこぼれ落ちる
神が、炎の稲妻の中に
世界史を詩作するならば
そして、それが、哀愁の響きであるならば
その哀愁は、すべての詩人の精神を通じて
震えながら行く、そのような哀愁の響きであるならば、
哀愁が(神に対して)恭謙なこころで
自らについて、自分が支配者(マイスター)だと認識したならば。


【解釈と鑑賞】

第1連は、当時盛んに言われたことなのでしょうか。どうも、そのように思います。

アイヒェンドルフは、それを否定して、遠ざけている。

独自の方法が古く、古風であれば、われわれの愛するものが永遠に古びることなく、若いままであるということが、この詩の、もし主張というならば、主張でありませう。

アイヒェンドルフにとって、古いということは、この詩を読むと、神に恭順であること、それが詩人であることを言っています。

第3連の第1行にある劇場とは、この世界、この世の舞台のことでしょう。


そうして、実は、そのようにあれば、詩人はその支配者、マイスターであるというのです。

2014年5月24日土曜日

【西東詩集70】 Hatem1


【西東詩集70】 Hatem1


【原文】

Der Sultan konnt es, er vermaehlte
Das allerschönste Weltenpaar,
Um zu bezeichnen Auserwwaehlte,
Die Tapfersten der treuen Schar.

Auch sei’s ein Bild von unsrer Wonne!
Schon seh ich wieder mich und dich,
Du nennst mich, Liebchen, deine Sonne,
Komm, suesser Mond, umklammre mich!


【散文訳】

スルタン(トルコ皇帝)には、それが出来た、彼は婚姻をなさしめた
最も美しき一対の、宇宙(世界)の男女を
選ばれし者と呼び、表すために
即ち、忠実な軍隊の中で最も勇敢なる者達を

それが、わたしたちの大歓喜の像であれかし!
既に、わたしは再び、わたしとお前を見てゐる
お前は、わたしを、愛する者よ、お前の太陽と呼んでゐる
来るがいい、甘い月よ、わたしを搔き抱いておくれ


【解釈と鑑賞】

これが、ここでHatemと題されて詠まれる長い歌の最初の連です。以後Hatemの後に番号を振つて続けます。

【Eichendorfの詩67】Liedesmut(歌心(うたごころ))



Eichendorfの詩67Liedesmut(歌心(うたごころ)) 

【原文】

Was Lorbeerkranz und Lobestand!
Es duftet still die Fruehlingsnacht
Und rauscht der Wald vom Felsenwand,
Ob’s jemand hört, ob niemand wacht.

Es schläft noch alles Menschenkind,
Da pfeift sein lust’ges Wanderlied
Schon übers Feld der Morgenwind
Und fraegt nicht erst, wer mit ihm zieht.

Und ob ihr all zu Hause sasst,
Der Frühling blüht doch, weil er muss,
Und ob ihr’s lest oder bleibenlasst,
Ich singe doch aus frischer Brust.


【散文訳】

月桂樹の冠と賞賛の地位が何だろう!
静かに、春の夜が薫っている
そして、森が、巌(いわを)の端からは、さやけき音を聞かせている
誰かがそれを聞かうが、誰も目覚めて居なからうが

まだ、すべての人の子たちは眠っている
すると、そこに、人の子の陽気な旅の歌の笛の音が聞こえて来る
既に野原を越えて、朝の風が吹いて来る
そして、その風は、誰がその風と一緒にやって来るのかを、最初に問ふことはない

そして、お前達皆が、家に在って、座していたかどうかを問はず
春は、何と言っても花盛りであり、何故なら春は咲かねばならないから
そして、お前達が書物を読まうが、読み止(さ)してをかうが
わたしは、新鮮な胸の内から声を出して歌ふだけなのだ


【解釈と鑑賞】

アイヒェンドルフという詩人が生きている場所を、そのまま歌った詩です。

第2連の「その風は、誰がその風と一緒にやつて来るのかを、最初に問ふことはない」といふ言ひ方には、神韻渺々と言つてもよいかも知れないやうな、何か非常に微妙なものを感じます。うまく言葉になりませんけれども。


歌心といふ題名から、第1連の第1行目を読むと、読者にも、そのこころも知られることでせう。

Von den Voegeln(鳥達について):第22週 by Luiza Neto Jorge

Von den Voegeln(鳥達について):第22週 by   Luiza Neto Jorge







【原文】

Unter den Vögeln sind
die mit dem reinsten Schrei
freie Gottheiten
in einem Luftloch



【散文訳】

数多くの鳥達の中に混じって在るのは
全く純粋な叫び声ということに関して言えば
自由である数々の神々であり、それらの神々は
或る空気の穴の中に在る


【解釈と鑑賞】


この詩人のことを書いたWikipediaです。

http://pt.wikipedia.org/wiki/Luiza_Neto_Jorge

ポルトガルの女流詩人です。


ポルトガルの青空を想像することがなかなか、日本にいると、難しいのではないかと思いますが、しかし、このような青空があるのでしょう。天に穴があるとすら思わせることのできる青空、です。

2014年5月17日土曜日

【西東詩集69】 Suleika

【西東詩集69】 Suleika


【原文】

DIE Sonne kommt! Ein Prachterscheinen!
Der Sichelmond umklammert sie.
Wer konnte solch ein Paar vereinen?
Dies Rätsel wie erklärt sichts? wie?


【散文訳】

太陽が来る!荘厳なる現象!
三日月が、太陽に巻き付き、抱きつく。
誰が、そのような一組の男女を一つにすることができたでしょうか?
この謎、自明の謎?でもどうやって説明がつくのでせう?


【解釈と鑑賞】

前の歌を受けて、この詩では、ズーライカがハーテムに答えています。

このあと、ハーテムの歌が延々と続きます。大きなひとくぎりづつ訳して参ります。




Geschlechtsverkehr(性交):第21週 by Otto Jaegersberg

Geschlechtsverkehr(性交):第21週 by   Otto Jaegersberg





【原文】

Geschlechtsverkehr

Eine umständliche Sache
meist lange Vorarbeiten

Wenns endlich losgeht
sind oft die Füße kalt

und dann tun die Knie weh
Bei längerem Geschlechtsverkehr
stellt sich in der Regel
Kniereissen ein

Niemand spricht darüber.



【散文訳】


性交

ある遠回りの、面倒なこと
殆どの場合、長い前段階の仕事あり

遂にはじまったかと思うと
しばしば、両足が冷たく

そして、次に膝が痛む
比較的長い性交の場合に
いつも現れるのは
膝の引っ掻き傷だ

誰もそれについては語らない。


【解釈と鑑賞】


この詩人のことを書いたWikipediaです。


ドイツの詩人です。1942年生まれ。Wikiによれば、小説家であり、また映像作家でもあるとあります。現在バーデンバーデンに在。

ネットで画像検索をしても、この詩人の画像が出て来ません。外に露出しないひとのようです。

5月にこの詩を措いたのは、春であり、生命の発散する時期だからでしょうか。

第1連の「前段階の仕事」というのは、まあ普通に言えば前戯ということなのでせう。

このように性交のことをあからさまに表現するというのは、現代のドイツ人らしいと言えばドイツ人らしい。


【Eichendorfの詩 67】Blonder Ritter(金髪の騎士)

【Eichendorfの詩 67】Blonder Ritter(金髪の騎士)

【原文】

Blonder Ritter, blonder Ritter,
Deine Blicke, weltschmerzdunkel,
Statt durch Helmes Eisengitter,
Durch die Brille gläsern funkeln.

Hinterm Ohre, statt vom Leder,
Zornig mit verwegner Finte
Ziehst du statt des Schwerts die Feder,
Und statt Blutes fliesset Dinte.

Federspritzeln, Ehr beklecken,
Ungeheueres Geschnatter!
Wilde Recken, wilde Recken,
Trampelt nicht die Welt noch platter.


【散文訳】

金髪の騎士よ、金髪の騎士よ
お前の視線は、世界苦に暗く
兜の鋼鉄の格子窓を通す代わりに
眼鏡を通して硝子のように、お前の視線は、火花が爆(は)ぜている。

お前の耳の後ろには、鐙(あぶみ)革(馬の上)からの代わりに
怒りで、大胆不敵な佯(よう)撃を使って
お前は剣の代わりに、筆を執り
そして、血の代わりに、インキが流れるのだ。

羽根ペンからインクが跳ね飛ぶこと、名誉を汚すこと
途方も無く、があがあと鳴くこと!
野生の英雄達を、野生の英雄達を
世界は踏みつけて、それ以上平たくするのじゃない。


【解釈と鑑賞】

この題名は、詩を読むと、詩人自身のことを言っていることがわかります。

詩人をひとりの騎士に譬えている。

第2連の「佯(よう)撃」とは、フェンシングや拳闘などで、打つと見せかける仕草をいうと辞書にはあります。

第3連の、ペンからインクが飛び散るという言葉と、その次の名誉を汚すということは、連想があります。この連想と飛躍の間に、詩人の苦労があるのです。

第3連の2行目を読むと、一寸自暴自棄な感情も混じっているように思います。

しかし、この詩を読んで改めて思ったことは、言葉は繰返されると、それだけである意味を備えるということです。
冒頭の金髪の騎士の繰り返し、第3連の野生の英雄の繰り返しです。

その者への呼びかけとも聞こえ、同時にまた読み進めると、文の中に収まっているのです。特に、後者などは。

2014年5月10日土曜日

Asparagus(アスパラガス):第20週 by Julie Schrader

Asparagus(アスパラガス):第20週 by   Julie Schrader





【原文】

Wenn im Mai blaest Pan die Floete,
Weil es Wonnemonat ist,
Schiesst der Spargel auf vom Beete,
Das geduengt mit Pferdemist.

Morgens kommen weisse Köpfe
Aus der grauen Erd’ heraus.
Mittags schleichet schon aus Töpfen
Wundersamer Duft ums Haus.

Ach, welch eine schöne Gabe
Hast Du, Herr, uns da bestellt!
Wenn ich einen Spargel habe,
Habe ich die ganze Welt!



【散文訳】


五月になって、牧神が笛を吹くと
それは、歓喜の月だから
アスパラガスが一斉に伸びるのだ
馬の糞が肥やしになった畑の上で

朝には、白い頭が
灰色の土の中から出て来るのだ
昼には、もう鍋の中から、忍び足で
不思議な香が、家の周りを歩くのだ。

ああ、何と言う美しい贈物を
あなたは、神よ、わたしたちに授け賜ふたのか!
もしわたしがアスパラガスを一本持っていれば
わたしは全世界を持っているということなのだ。


【解釈と鑑賞】


この詩人のことを書いたWikipediaです。


ドイツでは、5月はアスパラガスの季節です。アスパラガスが一斉に成長する様が目に見えるようです。これは、誠に美味しい。

Topfを鍋と訳しましたが、本来は壷という意味です。どうもドイツにはアスパラバス専用の、湯がくための鍋があるようです。写真をネットでみつけましたので、貼付します。

この詩を読んでいるうちに、アスパラガスが食べたくなりました。




【西東詩集68】 Hatem


【西東詩集68】 Hatem


【原文】

Ja! von mächtig holden Blicken,
Wie von laechlndem Entzücken
Und von Zaehnen blendend klar,
Wimpern-Pfeilen, Locken-Schlangen,
Hals und Busen reizumhangen,
Tausendfältige Gefahr!
Prophezeit Suleika war.


【散文訳】

そうさ、支配的な力を持ち、優美な眼差しから
魅力そのものが微笑んでいる、その魅力からのように
そして、輝いて明徴な歯からのように
睫毛の矢という矢、巻き毛の蛇という蛇から
首と胸からの、刺戟を覆い包んでいるということ
幾千層にも危険なことだ!
ズーライカが、預言されていたのだ。


【解釈と鑑賞】

前の歌を受けて、この詩では、ハーテムがズーライカに答えています。

このあと、ふたりの相聞歌が延々と続きます。


【Eichendorfの詩 65】Umkehr(帰還)

【Eichendorfの詩 65】Umkehr(帰還)

【原文】

Leben kann man nicht von Tönen,
Poesie geht ohne Schuh,
Und so wandt ich denn der Schönen
Endlich auch den Rücken zu.

Lange durch die Welt getrieben
Hat mich nun die irre Hast,
Immer doch bin ich geblieben
Nur ein ungeschickter Gast.

Überall zu spät zum Schmause
Kam ich, wenn die andern voll,
Trank die Neigen vor dem Hause,
Wusst nicht, wem ich’s trinken soll.

Musst mich vor Fortuna bücken
Ehrfurchtsvoll bis auf die Zeh’n,
Vornehm wandt sie mir den Rücken,
Liess mich so gebogen stehen.

Und als ich mich aufgerichtet
Wieder frisch und frei und stolz,
Sah ich Berg’ und Tal gelichtet,
Blühen jedes dürre Holz.

Welt hat eine plumpe Pfote,
Wandern kann man ohne Schuh―
Deck mit deinem Morgenrote
Wieder nur den Wandrer zu!


【散文訳】

楽の音だけで生きることはできない
詩情(ポエジー)は、靴がなければ歩けない
そして、わたしは、だから、美しい人に
ついに、実際、背を向けたのだ。

さて、そういうわけで、狂気の躁急は
長い間、世界中わたしを追い立てた
しかし、わたしは、いつも
ただの不器用な客のままであった。

どこでも、宴会に来るには遅すぎて
他人が腹一杯になったところで、わたしは到着するのだ
家の前で頽廃を飲んだ
わたしが誰のために飲むべきなのかを知らなかった。

わたしは、幸運の女神の前で背を屈(かが)めた
恭(うやうや)しく、足のつま先まで
高貴に、その女神は、わたしに背を向けて
わたしを、曲がったままに立たせておいた。

そして、再び新鮮に自由に誇り高く
わたしが身を起こし、立てたときに
わたしは、山や谷が明るくあるのを観た
どの痩せた樹木も花咲いているのを観た。

世界は、不格好で粗野な前足を持っている
旅を、靴を履かずにすることはできない
お前の曙光で、覆(おお)え
再び、ただ旅人だけを!


【解釈と鑑賞】

題名のドイツ語、Umkehrを帰還と訳しましたが、また回心と訳しても間違いではないと思われる。

第1連の「美しい人」は、実際の女性の恋人、憧れのひとという意味かも知れません。しかし、これは深読みを承知でいうならば、この美しい女性は、第2連に出て来るdie Welt、世界であるという解釈も成り立ち得るかも知れません。最後の連で歌っている世界をみると、此世界を粗野な前足として歌っていますので、第2連の世界と最後の連の世界では、世界に対する態度が変わっていることがわかります。それは後述します。

さて、第1連で歌っているのは、芸術だけでは生きてはいけないということ、歌や詩作だけでは、生活ができないということ。ということであれば、美しい人とは、美の女神であるかも知れません。そのように読むことも可能です。

第3連は、まったくその通りのことでありませう。世間はいつも急ぎ、わたしは取り残され、いつも遅くやってくる。詩人は、この世では、いつも不器用な客人である。

第5連の

Sah ich Berg’ und Tal gelichtet,
わたしは、山や谷が明るくあるのをみた

とあり、わたしはこのように訳しましたが、lichtenという動詞の意味は、樹木を伐採して、森に光を入れるという意味です。そうして、森や木々が、透いて、光輝くさまを言っています。

第4連の

Vornehm wandt sie mir den Rücken,
Liess mich so gebogen stehen.
高貴に、その女神は、わたしに背を向けて
わたしを、曲がったままに立たせておいた。

から、第5連の

Und als ich mich aufgerichtet
Wieder frisch und frei und stolz,
そして、再び新鮮に自由に誇り高く
わたしが身を起こし、立てたときに

までの間には、きっと苦しみの時間があったことでせう。この苦悩の時間を、空白の行間で、詩人は示しております。

最後の連の

Welt hat eine plumpe Pfote
世界は、不格好で粗野な前足を持っている

と訳した一行の意味は、eine plumpe PfoteのPfoteのドイツ語での用例を見ますと、それは、何か悪いことをしたときに、丁度犬の前足を叩いて、強く礼儀、礼節を教えるようなときに、前足が出て参ります。


だから、旅をするには靴が必要だというのです。この一行は、それまでの、世界、世間に対する感じ方、考え方から一転していて、その意味では、題名のUmkehr、回帰、回心になっております。

2014年5月3日土曜日

【西東詩集67】 Suleika


【西東詩集67】 Suleika


【原文】

SAG’, du hast wohl viel gedichtet,
Hin und her dein Lied gerichtet,
Schöne Schrift, von deiner Hand,
Prachtgebunden goldgeraendet,
Bis auf Punkt und Strich vollendet,
Zierlich lockend manchen Band?
Stets wo du sie hingewendet
Wars gewiss ein Liebespfand!


【散文訳】

いいですか、確かにあなたは沢山詩をつくりました
あちらにも、こちらにも、あなたの歌を差し向けて
美しい文字を、あなたの手づからの
壮麗に糸で綴じられて、金の縁取りをされて
一点、一画まで完璧につくられて
装飾されて、人を誘惑するように、幾多の巻をつくったのですか?
絶えず、あなたが、美しい文字を差し向ける場所では
確かに、それは、ひとつの愛の担保でした!


【解釈と鑑賞】

前の銀杏の葉の歌を受けて、ズーラライカが、この歌を歌っています。


Der verwundete Vogel(傷ついた鳥):第19週 by Jean de La Fontaine

Der verwundete Vogel(傷ついた鳥):第19週 by   Jean de La Fontaine





【原文】

Ein Vogel ward erlegt; gefiedert
war der Pfeil, und doppelt qualvoll
schien dem Armen sein Verhaeng-
nis. Sein Los beklagte er und sprach
in der Bedrängnis: “So haben wir
noch selbst an solchem Frevel teil?
Ihr harten Menschen zieht aus un-
sern Schwingen, was ihr bedürft, den
Tod von ferne uns zu bringen. Doch
spottet unser nicht, erbarmungs-
los Gezücht: wie oft ereilt euch ja
das gleiche Strafgericht. Stets wird
von Japets Stamm der eine Teil die
Waffen dem anderen verschaffen.”


【散文訳】


一羽の鳥が殺された。矢には
羽根がついていて、その悲運は、
二重に苦しみ多いと、哀れな鳥には、見えた。
その運命を、鳥は嘆き、こころは苦しみ、こう言った:
さて、我々は、自分で、まだそのような倨傲な振る舞いに関わっていてよいものだろうか?
お前達、無慈悲な人間達よ、私たちの
跳躍と飛翔の中から、お前達が必要としているものを取るがいい
死を、遠くから私たちに運んで来るということを。しかし、
わたしたちを軽蔑しないでくれ、慈悲のこころもない
下衆(げす)な人間どもよ。どんなにしばしば
同じ懲罰が、実際、お前達に追いつくことか。絶えず
ジャペットの一族の一部が、武器を、別の同じ一族に供給するのだから。


【解釈と鑑賞】


この詩人のことを書いたWikipediaです。




ジャペットの一族という言葉の意味が、不明です。ご存知の方がいらしたら、お教え下さい。

この言葉がわかると、最後の数行の意味が明らかになります。


日本人ならば、因果応報というところでせう。しかし、何故4月の下旬、また5月のこの五月(さつき)の詩に、この詩を配したものなのか。

【Eichendorfの詩 65】Guter Rat(善き忠告)

【Eichendorfの詩 65】Guter Rat(善き忠告)

【原文】

Springer, der in luft’gem Schreiten
Ueber die gemeine Welt,
Kokettieret mit den Leuten,
Sicherlich vom Seile fällt.

Schiffer, der nach jedem Winde
Blas er witzig oder dumm,
Seine Segel stellt geschwinde,
Kommt im Wasser schmählich um.

Weisen Sterne doch die Richtung,
Hörst du nachts doch fernen Klang,
Dorthin liegt das Land der Dichtung,
Fahre zu und frag nicht lang.


【散文訳】

空中を行進する跳躍者は
卑俗の世界を超えて
人々に媚(こび)を呈して
確かに綱から落ちる。

船乗りは、どの風にも従って
機智を効かせて、または愚かにも、笛を吹く
その帆を、迅速に立てて
水の中で、屈辱的に死ぬ。

星々は、しかし、言うまでもなく、方角を教える
お前は、夜になると必ず遠い響きを聞くのだ
そこには、詩の国がある
そこへ往け、そして、長くは問うな。


【解釈と鑑賞】

第一連と第二連は、夏目漱石の『草枕』の冒頭の、流れに棹させば流されるという言葉を思い出します。

第3連が、勿論、詩人の言いたいことでありませう。