2015年5月31日日曜日

【Eichendorfの詩119】 Der Geist(精神)



Eichendorfの詩119 Der Geist(精神)
  

【原文】
Nächtlich dehnen sich die Stunden,
Unschuld schläft in stiller Bucht,
Fernab ist die Welt verschwunden,
Die das Herz in Träumen sucht.

Und der Geist tritt auf die Zinne,
Und noch stiller wird's umher,
Schauet mit dem starren Sinne
In das wesenlose Meer.

Wer ihn sah bei Wetterblicken
Stehen in seiner Rüstung blandk:
Den mag nimmermehr erquicken
Reichen Lebens frischer Drang.--

Fröhlich an den oeden Mauern
Schweift der Morgensonne Blick,
Da versinkt das Bild mit Schauern
Einsam in sich selbst zurück.


【散文訳】
夜毎に、数々の時間は延びて遅くなつてゐる
罪なく、無垢に、静かな湾に眠ってゐるのは、世界
ずつと向かうで、世界は消えた
心臓(こころ)を数々の夢の中に求めてゐる世界は。

さうして、精神が、頂銃眼に歩み行き
そうして、周囲は、一層静かになり
凝然とした其の感覚を以て、実体の無い海の中を見るのだ。

精神が天候を知るために眺める際に
その甲冑を身にまとつて、無垢に輝いて立つてゐるのを見る者がゐる
この者を、決して二度と慰めて元気づけることはないであらう
豊かな生命の新鮮な衝動は。

陽気に、喜ばしく、荒涼たる壁といふ壁に
朝の太陽の眼差しが遊弋する
すると、そこに、ぞつとする恐怖を伴つて、その像が
孤独に、自己の、自分自身の中へと沈み、戻り行くのだ。


【解釈と鑑賞】

精神は孤塁を守るといふ言葉がぴつたりの詩です。

第二連の「頂銃眼」と訳したものの写真を掲げます。この写真からお判りの通り、アイヒェンドルフは、精神がひとり孤城にあることを想像して、この詩を歌つてゐるのです。



頂銃眼とは、上の写真にあるやうに、銃を撃つための隙間と隙間の間にある一種の盾のやうな壁のことです。

第一連の、

Nächtlich dehnen sich die Stunden,
夜毎に、数々の時間は延びて遅くなつてゐる

といふ一行を読みますと、この城には時間は存在しないのです。

さうして、やはり昼ではなく、精神は夜に棲むもののやうです。

第2連を見ますと、この孤城は海を打ち見ることのできる位置にあるのでせう。

第3連をみますと、この精神は、騎士の姿をしてゐて其の甲冑を身にまとひ、世の気象を読むことをしてゐる。

最後の連にある「その像」とは、以上の連に歌われた騎士の姿をした精神の姿といふ意味です。


この最後の連を読みますと、精神とは、恰も死者であるかの如くに思はれるほどです。

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