【西東詩集120】GUTE NACHT!(お休みなさい)
【原文】
NUN so legt euch, liebe Lieder,
An den Busen meinem Volke
Und in einer Moschus-Wolke
Hüte Gabriel die Glieder
Des Ermüdeten gefällig;
Dass er frisch und wohlerhalten,
Froh wie immer, gern gesellig,
Morge Felsenklüfte spalten,
Um des Paradieses Weiten,
Mit Heroen aller Zeiten,
Im Genuss zu durchschreiten;
Wo das Schöne, stets das Neue,
Immer wächst nach allen Seiten,
Dass die Unzahl sich erfreue.
Ja, das Hündlein gar, das treue,
Darf die Herren hinbegleiten.
【散文訳】
さてさて、横になれよ、愛する歌たちよ
わたしの民族の胸で
さうして、或る麝香(じやこう)の雲の中で
天使ガブリエルよ、忝(かたじけな)くも、
疲れたる者の、四肢を守護せよ
その者が、精気潑剌としてゐて、傷つくこと無く
いつものやうに陽気で、好んで人と交はつて
ならば巌(いわを)の割れ目も裂けるなら裂けるがいい
天国の広さを
あらゆる時代の神人(英雄)と一緒に
悦楽の中で、徒歩(かち)で横断するために
美しいもの、絶えず新しいもの
すべての方面に向かつて、いつも成長してゐる場所で
無数のものが歓ぶといふこと。
さう、あの仔犬までもが、あの忠実なる動物までもが
この主人たちに随伴を許されるのだ。
【解釈と鑑賞】
Divan、この西東詩集の最後にをかれた詩です。
麝香といふ言葉から判る通りに、この詩は、前の詩もさうですが、この詩集の一番最初のHegire(ヘジラ)といふ詩を踏まえて、即ち最後に最初に戻つて歌はれてをります。
かうして、地上の砂漠の隊商の旅の、その麝香も駱駝に積んで旅に出た其の旅の循環の環が、この最後の詩で天国といふ高みに昇り、しかし、同時に連絡が出来て、このやうな永遠の循環を続け、この循環は成長を続けるのです。
最後に、最初の詩、Hegireを掲げます。
ヘジラ
北も西も南も分裂し
玉座は割れ、諸王国は震える
逃げよう、純粋な東に
族長の空気を味わうために
愛、酒、歌を尽くせば
キーザーの泉が、お前を若返らせてくれる。
そこで、即ち、純粋であるものの中、正しいものの中で
わたしは、人類の
源泉の深みへと突き進みたい
そこでは、人類は、まだ神から
天の教えを、地上の言葉で感じていたし
そして、頭を悩ますことはなかった。
人類が、父祖達を高く敬っていて
異教の務めも禁じていた、そこでは
若さという限界も、わたしの心を歓ばせる
信仰は広く、思考は狭く
言葉が、そこでは、かくも大切であった通りに従って
何故ならば、言葉は、話される言葉であったからだ。
羊飼いたちの中に身を交えて
オアシスで、我が身を新しくして
キャラバンの隊商とともに旅をし、生活し
ショール、珈琲、そして麝香を商うならば
どの小道も踏破したいものだ
砂漠から町々までを
悪路の岩山道を登り、また下り
慰めよ、ハーフィスよ、お前の歌で
もし隊長が魅了されて
馬の高い背中から
星々を目覚めさせようと歌うならば
そして、盗賊どもを驚かせようと歌うならば
入浴しながら、また居酒屋にいながら
神聖なるハーフィスよ、お前を思うのだ
酒場の可愛い娘がそのヴェールに息を吹きかけて揺らす度に
首を振りながら、龍涎香の巻き毛の芳香を放つ度に
そう、詩人の愛の囁きは
天国の永遠の処女さへをも欲情させるがいいのだ
お前達は、ハーフィスがこうだからといって、それ羨むにせよ
あるいはまた、全く嫌がるにせよ
ただただ知るがよい
詩人の言葉は、天国の門の周りを
いつも微かに叩きながら漂っているということを
永遠の生命を切に願いながら
最後の、
詩人の言葉は、天国の門の周りを
いつも微かに叩きながら漂っているということを
永遠の生命を切に願いながら
といふこの三行が、最後の詩に至つて実現をしたといふことができませう。
さうして、この最後の詩の題名、お休みなさいに戻つて考へると、これは永遠の眠りにつくといふ、ゲーテの最後の挨拶といふことになります。
到頭ここに至つて、この詩集の翻訳と解釈も、筆を擱(を)くに至ります。
この題名の最後に!を付したゲーテのこころを思つて下さい。
GUTE NACHT!
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