【西東詩集116】ANKLANG(初音)
【原文】
Huri
DRAUSSEN am Orte,
Wo ich dich zuerst sprach,
Wacht ich oft an der Pforte,
Dem Gebote nach,
Da hört ich ein wunderlich Gesäusel,
Ein Ton- und Silbengrkräusel,
Das wollte herein;
Niemand aber liess sich sehen,
Da verklang es, klein zu klein;
Es klang aber fast wie deine Lieder,
Das ernnr ich mich wieder.
Dichter
Ewig Geliebte! wie zart
Erinnerst du dich deines Trauten!
Was auch, in irdischer Luft und Art,
Fuer Töne lauten,
Die wollen alle herum;
Viele verklingen da unten zu Hauf;
Andre, mit Geistes Flug und Lauf,
Wie das Flügel-Pferd des Propheten,
Steigen empor und flöten
Draussen an dem Tor.
Kommt deinen Gespielen so etwas vor
So sollen sie’s freundlich vermerken,
Das Echo lieblich verstärken,
Daß es wieder hinunter halle.
Und sollen Acht haben
Dass, in jedem Falle,
Wenn er kommt, seine Gaben
Jedem zugute kommen;
Das wird beiden Welten frommen.
Sie morgens ihm freundlich lohnen,
Auf liebliche Weise fügsam;
Sie lassen ihn mit sich wohnen:
Alle Guten sind genügsam.
Du aber bist mir beschieden,
Dich lass ich nicht aus dem ewigen Frieden;
Auf die Wache sollst du nicht ziehen,
Schick eine ledige Schwester dahin.
Dichter
DEINE Liebe, dein Kuß mich entzückt!
Geheimnisse mag ich nicht erfragen;
Doch sag’ mir ob du an irdischen Tagen
Jemals Teil genommen?
Mir ist es oft so vorgekommen;
Ich wollt’ es beschwören, ich wollt’ es beweisen.
Du hast einmal Suleika geheißen.
Huri
Wir sind aus den Elementen geschaffen,
Aus Wasser, Feuer, Erd’ und Luft
Unmittelbar; und irdscher Duft
Ist unserm Wesen ganz zuwider.
Wir steigen nie zu euch hernieder;
Doch wenn ihr kommt bei uns zu ruhen
Da haben wir genug zu tun.
Denn, siehst du, wie die Gläubigen kamen,
Von dem Propheten so wohl empfohlen,
Besitz vom Paradiese nahmen,
Da waren wir, wie er befohlen,
So liebenswürdig, so charmant,
Wie uns die Engel selbst nicht gekannt.
Allein der erste, zweite, dritte
Die hatten vorher eine Favorite;
Gegen uns waren garstige Dinger,
Sie aber hielten uns doch geringer;
Wir waren reizend, geistig, munter —
Die Moslems wollten wieder hinunter.
Nun war uns himmlisch Hochgebornen
Ein solch Betragen ganz zuwider,
Wir aufgewiegelten Verschwornen
Besannen uns schon hin und wider;
Als der Prophet durch alle Himmel fuhr
Da passten wir auf seine Spur;
Rückkehrend hat er sich nicht versehen,
Das Flügel-Pferd es musste stehen.
Da hatten wir ihn in der Mitte! —
Freundlich ernst, nach Propheten-Sitte,
Wurden wir kürzlich von ihm beschieden;
Wir aber waren sehr unzufrieden.
Denn seine Zwecke zu erreichen
Sollten wir eben alles lenken,
So wie ihr dächtet sollten wir denken,
Wir sollten euren Liebchen gleichen.
Unsere Eigenliebe ging verloren,
Die Mädchen krauten hinter den Ohren,
Doch, dachten wir, im ewigen Leben
Muß man sich eben in alles ergeben.
Nun sieht ein jeder was er sah,
Und ihm geschieht was ihm geschah.
Wir sind die Blonden, wir sind die Braunen,
Wir haben Grillen und haben Launen,
Ja, wohl auch manchmal eine Flause;
Ein jeder denkt er sei zu Hause,
Und wir darüber sind frisch und froh
Daß sie meinen es wäre so.
Du aber bist von freiem Humor:
Ich komme dir paradiesisch vor,
Du gibst dem Blick, dem Kuß die Ehre
Und wenn ich auch nicht Suleika wäre.
Doch da sie gar zu lieblich war,
So glich sie mir wohl auf ein Haar.
Dichter
Du blendest mich mit Himmelsklarheit,
Es sei nun Täuschung oder Wahrheit,
Gnug, ich bewundre dich vor allen.
Um ihre Pflicht nicht zu versäumen,
Um einem Deutschen zu gefallen,
Spricht eine Huri in Kinderreimen.
Huri
Ja, reim auch du nur unverdrossen,
Wie es dir aus der Seele steigt!
Wir paradiesische Genossen
Sind Wort- und Taten reinen Sinns geneigt.
Die Tiere, weisst du, sind nicht ausgeschlossen,
Die sich gehorsam, die sich treu erzeigt.
Ein derbes Wort kann Hui nicht verdrießen,
Wir fühlen was vom Herzen spricht,
Und was aus frischer Quelle bricht,
Das darf im Paradiese fließen.
Huri
WIEDER einen Finger schlägst du mir ein!
Weißt du denn wieviel Äonen
Wir vertraut schon zusammen wohnen?
Dichter
Nein! — Wills auch nicht wissen. Nein!
Mannigfaltiger frischer Genuß,
Ewig bräutlich keuscher Kuß! —
Wenn jeder Augenblick mich durchschauert,
Was soll ich fragen wie lang es gedauert!
Huri
Abwesend bist denn doch auch einmal,
Ich merk es wohl, ohne Maß und Zahl.
Hast in dem Weltall nicht verzagt,
An Gottes Tiefen dich gewagt;
Nun sei der Liebsten auch gewärtig!
Hast du nicht schon das Liedchen fertig!
Wie klang es drauß an dem Tor?
Wie klingts? — Ich will nicht stärker in dich dringen,
Sing mir die Lieder an Suleika vor:
Denn weiter wirst du’s doch im Paradies nicht bringen.
【散文訳】
天国の処女
外のその場に
わたしが、最初にあなたに話しかけた其の場所に
わたしは、よく門のところで歩哨に立つてゐるのです
神の命令ずるままに
と、わたしは、奇妙なそよ吹く風の音を耳にしました
ある調子と音節の縮(ちぢれ)の音を
それが入つて来たいと言つてゐました
しかし、人の影はない
と、その響きは、小さく小さく、極く小さくと消えてしまつた
しかし、それは、あなたの歌々のやうに、響いたのです
それで、わたしは再び思ひ出してゐるのです。
詩人
永遠に愛する乙女よ!何と優しく
お前はお前の愛する男を思ひ出してゐることか!
地上の空気と様子にあつて、
何といふ音が響いていることか
その音は皆、ここを徘徊したいと言つてゐるのだ、つまり、
数多くの音が、あの下のところで一塊(ひとかたまり)になって消えて行く
他の音は、霊魂の飛翔と歩行をして
預言者の有翼の馬のやうに
高く昇り、笛を吹いてゐる
外の門のところで。
お前の遊び仲間の眼の前に、そんな何かが現れると
その仲間たちは、親切にも其れと気づかずにはゐられない
木霊(こだま)が愛らしく強めるのは
木霊が再び下の方(地上)へと響き渡ることであるし
そうして、そのお前の仲間達は、必ず注意を向けて
どの場合にも
預言者が来るときには何時でも、預言者の持つてゐる数ある才能は
誰にでも恵みを与へるために来るのだといふことに注意を向ける
それが、二つの世界を益することになるのだから。
その仲間達は、毎朝、男に親しく報酬を与へる
愛すべき方法で従順に
その者たちは、自らと一緒に男を住まわせる。即ち、
あらゆる善人たちが満足するのだ。
あなたは、しかし、わたしにだけ授けられてゐるのだ
あなたを此の永遠の平安の外へと強いて出すことはしないのだ
歩哨に立たせることもしないのだ
お前は、代わりに、仲間の未婚の女性を送つて立てたらいいだ。
詩人
お前の愛、お前の口づけは、わたしを魅了するのだ!
数々の秘密の深奥を、訊いて知りたいとは思はないのだ
しかし、教えてくれ、お前は地上の日々に
一度も加わつたことはなかったのか?
わたしには、よくこのやうなことが起きるのだ
わたしは誓ひたい、わたしは証明したいのだ。
お前は嘗てズーライカtいう名前で呼ばれていた女ではないかと。
天国の処女
私たちは、自然の諸要素から創造されたのです。
水、火、土、そして空気から
直接に、そして地上の匂ひは
わたしたちの本質には全く逆らふものなのです。
わたしたちは、決して一度も、あなたたちの所へと降りて行くことはないのです
しかし、勿論さうは云へ、あなたたちは、わたしたちの所で憩(いか)ふために来るのですし
そうであれば、その度に、わたしたちには為すべきことは十分にあるのです。
といふのも、よろしいですか、信心深い者たちが来たるがままに
預言者たちに、かくも確かに奨められて
天国の所有物を我がものとし
そうであればこそ、わたしたちは、預言者の命ずるままに
かくも愛らしく、かくも魅力的であつたのです
天使たちでさへ知らぬわたしたちであるがままに。
しかし、最初の、二人目の、三人目の男たちが続いて
この男たちには、以前には、寵愛を注いだ一人の女がゐていて
わたしたちに向かつては、野卑な俗物どもであつたのですし
わたしたちを、しかし何といつても、自分たちよりも低く見てゐたのです
わたしたちは魅力的であり、精神的であり、陽気でありましたのに
回教徒たちは、再び下の世界へと行きたいと言つたのです。
さて、かうして今や、わたしたちには、天国で高貴に生まれた者たちにとっては
そのような振る舞いは、全く意に染まぬことなのであり
わたしたち、唆(そそのか)されて呪われた者たちは
既にあつちに行つたり此つちに行つたり思ひ乱れたのです
預言者が総ての天国を通り抜けたときに
わたしたちは、その預言者の足跡に注意を払ひました
戻つて来るのにしても、預言者は道を間違へることはありませんでした
間違いなく、有翼の馬が立つてゐなければならなかつたのですから。
そこで、わたしたちは預言者を真ん中にして大切にしたのでした!
親切にも真剣に、預言者の風儀に従つて
わたしたちは、最近、予言によつて命ぜられたことがあるのですが
しかし、非常に不満でした。
といひますのも、預言者の目的を達成するには
わたしたちは、まさに総てを操縦制御しなければならなかつたからですし
それは、あなたたちがお考えの通りに、わたしたちは考えなければならず
あなたたちの愛する者に、わたしたちは似てしまふやうになる以外にはなかつたからなのです。
わたしたちの本来の愛は、失はれてしまひました
天国の乙女たちは、頭を掻いて困惑したのです
しかし、わたしたちは、考へたのでした、永遠の生命の中にゐて
まさしく全ての中で犠牲となり、献身しなければならないのだと。
かうして今や、誰もが、預言者の見たものを見
そして、預言者に起こったことが、誰の身にも起きたのです。
わたしたちは、金髪の女あり、茶色の髪の女あり、様々な女たちです
わたしたちは、気まぐれであり、物思ひを致します
そうです、時にはよく、無駄口も叩きます
誰もが、預言者は此の天国の家にゐると考えてをり
そして、わたしたちは、さう考へてゐるのですから、新鮮であり、そして楽しくあるのです
金髪の女たちや茶色の髪をした色々の女たちが、さうだらふと思ふのですから。
あなたは、しかし、自由闊達なユーモアをお持ちでゐらつしやる
わたくしは、あなたにとっては天国の女のやうにみえてゐる
あなたは、眼差しに、口づけに、名誉を与えて下さる
そして、もしわたしが実際ズーライカではないとしたならば
いいえ、ズーライカは間違いなく魅力的に過ぎる女性でありましたから
そうであればこそ、ズーライカはわたくしに間違いなく髪の毛一筋も違(たが)ふことなく似てゐたのです。
詩人
あなたは、天国の清澄の光で、わたしを眩しくします
さてはて、これは、目くらましなのか、はたまた真実なのか
結構結構、わたしはすべての人たちよりも何よりも、お前をだけ不思議に思はせることにしやう。
ズーライカの義務を怠らしめぬために
一人のドイツ人の男(をのこ)の気に入られむがために
一人の天国の処女が、子供の可愛らしい韻律を踏み、そのやうに心を合わせて話をしているのだから。
天国の処女
ええ、さうですとも、あなたも、只々不愉快とは無縁のこころで韻をお踏みなさい
あなたの魂の中から出て来るままに!
わたくしたち、天国の仲間たちは
純粋な心の言葉と行ひに好意を持つてをります。
動物たちも、いいですか、排除されてはゐないのです
従順であつて、忠実に振る舞ふ動物たちであるからには。
無作法な言葉であつても、天国の処女を不愉快にすることはできません
わたくしたちは、心について話してゐものを感じてゐるのですし
さうして、新鮮な源泉から吹き出るものを感じてゐるのですし
これこそが、天国で流れることがゆるされてゐるのですから。
天国の処女
また、わたしのひと指をお掴みなつて、いけない人ね!
どれだけ永劫の長きに亘って親しく信頼し合つて
わたしたちが既に一緒に住まひなしてゐることと、あたなは一体全体御思ひなのですか?
詩人
そんなことは知るものか!知りたいとも思はないのさ。知るもんか!
幾多の新鮮な享楽
永遠に花嫁でいる其の純潔の口づけ!
どの瞬間も、わたしを身震いさせるが、そのたびに
何故に、どれだけ長くこれが続いたのかと、わたしは問はねばならないのだ!(そんな必要はあるまい)
天国の処女
心も上の空で、一体あなたはまたゐらつしやる
わたくしは気づいてゐるのですよ、測りもせず計算もせずに
全宇(宇宙)の中で、あなたは、意気消沈することはなかつたし
神の数々の深淵に勇敢に生きたのです
かうして今や、だうか、最も愛する女性を眼にしてゐらつしやゐませ!
あなたは、もう既にその小さな可愛らしい歌を完成させてゐるのではないですか!
この門の外で、どのやうに、それが響きましたか?
どのやうに響くのですか?わたしは、あなたのなかに此れ以上強く押し入りたくはありません
ズーライカへん歌の数々を、わたくしに今歌ってみせて下さい
といひますのも、何と言つても、天国の中には此の先持ち込めないのですから。
【解釈と鑑賞】
下から6番目の連にある、
Du aber bist von freiem Humor:
Ich komme dir paradiesisch vor,
Du gibst dem Blick, dem Kuß die Ehre
Und wenn ich auch nicht Suleika wäre.
Doch da sie gar zu lieblich war,
So glich sie mir wohl auf ein Haar.
あなたは、しかし、自由闊達なユーモアをお持ちでゐらつしやる
わたくしは、あなたにとっては天国の女のやうに立ち現れている
あなたは、眼差しに、口づけに、名誉を与えて下さる
そして、もしわたしがズーライカではないとしたならば
いいえ、ズーライカは間違いなく魅力的に過ぎる女性でありましたから
そうであればこそ、ズーライカはわたくしに間違いなく髪一筋も違(たが)ふことなく似てゐたのです。
とある、この「もしわたしがズーライカではないとしたならば」の動詞は接続法II式すので、英語ならば非現実話法ですから、実はこの天国の処女は、自分がズーライカだと言つているのです。
天国という地上ではない世界で、このズーライカと再び逢うといふこの筋立ては、誠に何か人間の在り方の本質を歌つてゐると思ひます。感心する以外にはありませぬ。
このやりとりそのものが、もう非常に高度な性愛に満ちたeroticな言葉のやりとりになつてをります。
ただ、このやりとりを味はふだけで、よいのではないでせうか。
この天国の処女と詩人の問答は、間違いなく、この詩集の最初の詩、Hegireの最後の連に対応し、照応しているのです。次のように、このヘジラという詩の最後が歌われてをりました。
Wisset nur, dass Dichterworte
Um des Paradieses Pforte
Immer leise klopfend schweben,
Sich erbittend ewges Leben.
ただ知るがいいのだ、詩人の言葉は
天国の門の周りを囲って
いつもそっと門を叩きながら浮遊しているのだということを
永遠の命を乞ひ求めながら。
この天国の門をそっと叩くというこの表現には、勿論、処女のあの秘所の門を叩くという意味が掛けてあるのでした。
この天国の処女と詩人の問答は、間違いなく、この詩集の最初の詩、Hegireの最後の連に対応し、照応しているのです。次のように、このヘジラという詩の最後が歌われてをりました。
Wisset nur, dass Dichterworte
Um des Paradieses Pforte
Immer leise klopfend schweben,
Sich erbittend ewges Leben.
ただ知るがいいのだ、詩人の言葉は
天国の門の周りを囲って
いつもそっと門を叩きながら浮遊しているのだということを
永遠の命を乞ひ求めながら。
この天国の門をそっと叩くというこの表現には、勿論、処女のあの秘所の門を叩くという意味が掛けてあるのでした。
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