2012年6月21日木曜日

【西東詩集1】Buch des Saengers:冒頭のエピグラムの詩


【西東詩集1】Buch des Saengers(歌手の書):冒頭のエピグラムの詩

【原文】

Zwanzig Jahre liess ich gehen
Und genoss was mir beschieden;
Eine Reihe voellig schoen
Wie die Zeit der Barmekiden.


【散文訳】

20年を、わたしは、行かしめた
そして、わたしに与えられる定めとなっていたものを享受した
それは、全く美しいひと連なり
バルメキーデン一族の時代のように


【解釈】

今日から、淡々とゲーテの西東詩集 (West-Oestlicher Divan)を頭から順々に訳して行く事にしよう。

リルケのオルフェウスへのソネット55篇を訳し終え、解釈し終えたという経験が、わたしの肥やし、わたしの糧になっているのを感じる。

そうして、去年、2011年3月11日の大震災と大津波の直後の3日間で、カレンダー53週の詩53篇をお経を読むように読んで、全て日本語に訳してしまった常ならぬ経験もまた。

本は、Insel版の西東詩集を使います。386ページあるうちの、124ページがゲーテの詩、残りの262ページが、ゲーテ自身による註釈と論文、それから採録されなかった詩の遺稿集になっています。

この詩集は、次の9つの書からなっています。

1. Buch des Saengers(歌手の書)
2. Buch Hafis(ハーフィスの書)
3. Buch der Liebe(愛の書)
4. Buch der Betrachtungen(観察の書)
5. Buch des Unmuts(不満の書)
6. Buch der Sprueche(箴言の書)
7. Buch des Timur(ティムールの書)
8. Buch Suleika(ズーライカの書)
9. Das Schenkenbuch(酒酌ぎの書)
10. Buch der Parabeln(寓話の書)
11. Buch des Parsen(パルシー教徒の書)
12. Buch des Paradieses(天国の書)

この詩集を出版したときのゲーテは、70歳。そのゲーテが20年を行かしめたと歌っている20年前は、50歳。

50歳からの20年が豊かであったことを、このエピグラムは示しているのだと思います。それが、どのような20年であったか、それがこの詩集に結晶していると言っているのでしょう。

20年を行かしめたと訳した一行の意味は、その豊かな20年を運命として受け容れて過ごしたと言っています。

それは、あの豊かなバルメキーデン一族の時代のような連続の時間であった。

バルメキーデン一族という一族は、イスラム帝国のアッバース朝の盛期を支えたペルシャ人の高官の一族です。もともとは、ゾロアスター教徒でありましたが、イスラムによる征服の後にイスラム教に改宗して王朝に仕えました。税務と軍隊の統率をまかされていたとドイツ語のWikipeidaにはあります。

もうこのエピグラムからして、既にペルシャとイスラム世界が提示されていて、読者はその世界に誘われることになります。

ゲーテの巻末にある重厚な論文の冒頭には、次のような自らの詩が掲げられています。この詩からは、ハーフィスというこの詩集を編む契機を与えた詩人に対する尊敬の念が伝わって来ます。そうして、またわたしたちもこの西東詩集を同じ気持ちを以て読めばよいのではないでしょうか。

Wer das Dichten will verstehen
Muss ins Land der Dichtung gehen;
Wer den Dichter will verstehen
Muss in Dichers Lande gehen.

詩作を理解しようとする者は
詩の国に行かねばならぬ
詩人を理解しようとする者は
詩人の国に行かねばならぬ

次回読む、Hegire(ヘジラ)という詩は、3.11の後になって尚一層治世の乱れている今の世というコンテクストにおいて読むと、一層意義のある詩だと思います。

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