2012年10月24日水曜日

【西東詩集18】 Beiname(渾名)



【西東詩集18】 Beiname(渾名)


【原文】

Beiname

         Dichter

MOHAMED Schemseiddin, sage,
Warum hat dein Volk, das hehre,
Hafis dich genant?

          Hafis
            Ich ehre,
Ich erwidre deine Frage,
Weil, in gluecklichem Gedaechtnis,
Des Korans geweiht Vermaechtnis
Unveraendert ich verwahre,
Und damit so fromm gebarte,
Dass gemeinen Tages Schlechtnis
Weder mich noch die beruehret
Die Propheten-Wort und -Samen
Schätzen wie es sich gebühret:
Darum gab man mir den Namen.

          Dichter
Haffs, drum, so will mir scheinen,
Moecht ich dir nicht gerne weichen:
Denn wenn wir wie andre meinen,
Werden wir den andern gleichen.
Und so gleich ich dir vollkommen,
Der ich unsrer heiligen Bücher
Herrlich Bild an mich genommen,
Wie auf jenes Tuch der Tuecher
Sich des Herren Bildnis drueckte,
Mich in stiller Brust erquickte,
Trotz Verneinung, Hindrung, Raubens,
Mit dem heitren Bild des Glaubens.

   
【散文訳】

     詩人

モハメッド•シェムザイディン、教えてくれ
何故お前の民は、高貴なるものは
お前をハーフィスと呼んだのだ?

     ハーフィス
       わたしは敬う
わたしは、お前の問いに答えよう
何故ならば、幸福の記憶の中にあって
コーランの捧げられたる神聖な財産を
変わらずに、わたしが保有しているからなのだ
そして、それによって、かくも敬虔に振る舞ったので
卑俗な日の悪しきことが
わたしにも、また預言者の言葉と預言者の種子にも触ることがなく
彼らのの言葉と種子が
その相応しくある様を評価をし
それ故に、ひとはわたしに其の名を与えたのだ。

     詩人
ハーフィスよ、だから、お前はわたしには光り輝いているのだ
わたしはお前から喜んで逃れようとは思わない
何故ならば、わたしたちが互いに他のように思うならば
わたしたちは互いに他の者に似ていることになるだろうから。
そうして、かくもわたしは完璧にお前に似ているのだ
わたしたちの神聖なる数々の書物の
荘厳なる画像を我が身に取ったこのわたしだ
布の中のあの布の上にであるかのように
神の姿は自らを捺(お)し
わたしを、静かな胸の中で、生気溌剌とさせた
否定や、妨害や、強奪にも負けずに
信仰の明朗なる画像を以て



【解釈】

これが、Buch Hafis、即ちハーフィスの巻の最初の詩です。

モハメッド•シェムザイディンというのが、ハーフィスの本名なのです。

ハーフィスという詩人の名前の意味が、ハーフィスとゲーテの対話の形式で歌われています。

ハーフィスの最初にいう、わたしは敬うという始めの言葉は、定型的な、伝統的な、このような高い地位に在る人間同士の間の、ペルシャの言い方なのでしょう。日本語ならば、謹んで申し上げる、敬いて申し上げるということです。しかし、少し変かも知れませんが、原文のままに訳しました。

最後の詩人の歌う連は、ゲーテの心中を吐露しています。

ハーフィスという遠いペルシャの詩人に出逢って、ゲーテは当時の生活の中で、それに負けずに生きて行くことのできる模範としての詩人、亀鏡としての詩人を発見し、これを歌ったのです。

自分がハーフィスと全く完璧に同じであるという一行には、ゲーテの深い思いを感じますし、また、

布の中のあの布の上にであるかのように
神の姿は自らを捺(お)し
わたしを、静かな胸の中で、生気溌剌とさせた
否定や、妨害や、強奪にも負けずに
信仰の明朗なる画像を以て

という最後の5行には、世間の悪意や妨害や、盗人猛々しい振る舞いに負けない明るさ、明朗さを恢復したゲーテのこころがあります。

明朗なと訳したheiter、ハイターという形容詞は、ゲーテの好きな言葉です。

学生の頃、東京のあるドイツレストランの壁に、ゲーテの言葉で、"Leben ist ernst, Kunst ist heiter"と額が掛かっていたのを想い出します。

人生は厳粛なり、藝術は明朗なり。

しかし、厳粛なる人生は、我々を往々にして窒息させるものです。

ゲーテのこころや、推して知るべし。




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