2012年10月13日土曜日

【西東詩集17】 Selige Sehnsucht(聖なる憧憬)



【西東詩集17】 Selige Sehnsucht(聖なる憧憬)


【原文】

Selige Sehnsucht

Sagt es niemand, nur den Weisen,
Weil die Menge gleicht verhöhnet,
Das Lebendge will ich preisen
Das nach Flammentod sich sehnet.

In der Liebesnaechte Kuehlung,
Die dich zeugt, wo du zeugtest,
Ueberfaellt dich fremde Fuehlung
Wenn die stille Kerze leuchtet.

Nicht mehr bleibest du umfangen
In der Finsternis Beschattung,
Und dich reisset neu Verlangen
Auf zu höherer Begattung.

Keine Ferne macht dich schwierig,
Kommst geflogen und gebannt,
Und zuletzt, des Lichts begierig,
Bist du Schmetterling verbrannt.

Und solang du das nicht hast,
Dieses: Stirb und werde!
Bist du nur ein trüber Gast
Auf der dunklen Erde.

Tut ein Schilf sich doch hervor
Welten zu versüßen!
Möge meinem Schreibe-Rohr
Liebliches entfliessen!


【散文訳】

聖なる憧憬

誰にも言うんじゃない、ただ賢者にだけいいなさい
何故ならば、有象無象どもは直ぐに軽蔑するからだ
生き生きしているものを、わたしは賞賛する
炎へ向かって死ぬことに憧憬するものを

愛の夜々の、お前を生む冷たさの中で
またお前が生むのであるその感覚の中で
お前を、異質な感じが襲うのだ
静かな蝋燭が輝くたびに

お前はもはや捕われていることには留まらない
暗闇の影の中で
そして、お前を、新しい欲求が奪い取り
無理矢理、より高次の性交へと連れて行くのだ

どんな距離もお前を困難にしはしない
お前は、飛んで、そして焼かれて来るのだ
そして、最後には、光を熱烈に求めて
お前、蛾は、焼け死ぬのだ

そして、お前がこれを自分のものにしない限り
この言葉を:死ね、そして成れ!
お前は、単なる昏い客だ
この暗い地上では

一本の葦が現れて
数多くの世界を甘くするように
わたしの筆から
愛らしいものが流れ出て来ますように!




【解釈】

Das Buch des Sängers(歌手の歌、あるいは歌手の巻)のこの詩が、最後の詩です。

歌い手、朗唱者、即ち詩人を一匹の蛾に譬えて、夜にその光を求める衝動を歌っています。それも、実にエロティックに女性との性交を歌いながら、詩人という創造者の創造の秘密を明かしている。

また、既に見たように、詩人の高慢無礼な様子と、身を粉にして勤める勤勉をも歌っています。また、最後に自分の筆を一本の名も無い葦に譬えて、詩人自身のこころの素晴らしい均衡を保っています。

こうしてみると、この巻の最後にあって、それまでの詩篇をすべて含んでいる詩だということができるでしょう。

この巻を読んで来て、ゲーテが、Liebliches、愛らしいもの、好ましいものというときには、常に詩のことを指していました。

それを創造することが、詩人のつとめであるといっております。

最後の連は、何かそれまでの連とは異なり、急に詩人の筆の話になって、とって付けたような感じがしますが、やはり、詩人が創作することについての願いの連ですから、それまでの連とは無関係ではなく、ゲーテが必要としてここに置いた連なのだと考えることがよいのです。

この最後の連のあることで、詩人が、あるいはゲーテが、終始一貫、言葉と言葉による表現に意を用いていることがわかります。

即ち、この巻きの最初の詩、古代の父祖の、族長の時代のあの質朴な、正直な言葉が話されていた時代を歌ったHegire(ヘジラ)をもう一度読んでみて下さい。ゲーテのこころが一層解ることと思います。

次回は、Buch Hafis、ハーフィスの巻です。いよいよ、ゲーテの親炙したハーフィスというペルシャの詩人の巻になります。

こうして考えて来ますと、やはり最初に歌手の巻、詩人の巻という巻を置いて、ゲーテは自分自身の詩人としての在り方を一度整理する必要があったのだということがわかります。

そうして、敬愛するハーフィスの詩の巻をその次に配置したということなのでしょう。いよいよ深く、詩と詩人の世界に足を踏み入れることになります。

やはり、その巻頭のエピグラムは、言葉と精神のことが歌われて、この巻が始まるのです。



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