2012年10月8日月曜日

【西東詩集16】 All-Leben(生命こそ全て)



【西東詩集16】 All-Leben(生命こそ全て)


【原文】

All-Leben

Staub ist eine der Elemente,
Das du gar gechickt bezwingest,
Haffs, wenn zu Liebchens Ehren
Du ein zierlich Liedchen singest.

Denn der Staub auf ihrer Schwelle
Ist dem Teppich vorzuziehen,
Dessen goldgewirkte Blumen
Mahmuds Guenstlinge beknieen.

Treibt der Wind von ihrer Pforte
Wolken Staubs behend vorueber,
Mehr als Moschus sind die Düfte
Und als Rosenöl dir lieber.

Staub den hab' ich laengst entbehret
In dem stets umhüllten Norden,
Aber in dem heissen Süden
Ist er mir genugsam worden.

Doch schon längst dass liebe Pforten
Mir auf ihren Angeln schwiegen!
Heile mich, Gewitterregen,
Lass mich dass es grunelt riechen!

Wenn jetzt alle Donner rollen
Und der ganze Himmel leuchtet,
Wird der wilde Staub des Windes
Nach dem Boden hingefeuchtet.

Und sogleich entspringt ein Leben,
Schwillt ein heilig, heimlich Wirken,
Und es gruselt und es gruenet
In den irdischen Bezirken.


【散文訳】

命こそ全て

塵(ちり)は、全くお前が器用にもの言わせる
要素のひとつだ、ハーフィスよ、愛する者の玄関で
お前が優美な歌を歌うたびに

何故ならば、塵とは愛する者の閾(しきい)の上にあって
絨毯よりもよいものとして選ばれるべきものだからだ
その絨毯の金色に輝く花々が
モハメッドのお気に入りたちを跪(ひざま)づかせるその絨毯よりも

風は、愛する者の門から
塵の雲をさっととり払う
と、麝香以上に、様々な芳香がする
そして、その香は、薔薇の油以上に、お前に好ましい

塵を、わたしはもうずっと無しではいられなかった
絶えず(塵に)包まれている北で
しかし、熱い南で
塵は、わたしには十分なものとなった。

わたしのために、その蝶番(ちょうつがい)に載って揺れている!
わたしを治(なお)せよ、雷雨よ、夕立よ
わたしをして、青い萌芽が生まれて匂い立つようにあらしめよ!

今すべての雷鳴が鳴り渡るならば
そして、すべての天が光るならば
風の荒々しい塵は
地面に向かって落ちて、地面を濡らすだろう。

そして、そこから直ちに、生命が飛び出て
神聖な、密やかな働きが漲(みなぎ)るのだ
そして、身の毛がよ立ち、青葉の香がするのだ
地上の様々な領域で


【解釈】

All-Lebenとは普通には言わぬ造語です。

Allは全て、Lebenは生命、命という意味です。このふたつの言葉をハイフンで結合して一個の概念となしている。訳すると、全ての生命という意味ですが、しかし、このハイフンで結合したというところにゲーテの割り当てた意味があって、その意を汲んで、敢えて生命こそ全てと訳しました。

ゲーテが、この歌い手の書と題した第1巻で歌った詩の中には、既に見て来たように、現世に対して詩人としてあることの難しさ、苦しさを歌った詩、そのような詩を歌うことで自分自身を救う詩が幾つかありましたが、この詩はこの巻の中で最後のその種の詩です。

この詩では、もはや苦しさは表には出ず、むしろハーフィスの力を借りて、詩の源である生命というものを、全く詩であるが故に、塵という風に吹かれる素材、普通ひとはむしろ逆に思う筈の素材に自分の命を託して歌われています。

わたしはこの詩を読んで、思いもかけず、同じ発想をする安部公房という作家の感覚を想い出しました。

このような自分自身を救い、苦しみを癒す詩を書いて、次の詩、聖なる憧憬というこの巻の、素晴らしい、エロティックな最後の詩をおくのです。









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