釧路湿原
岩田英哉
天空の一点から
不意に
青銅の鷲が一羽、糸をひくように落下して
春の湿原に消えた
そこに巣があるのだ
わたしの右手では
そこに巣があるのだ
わたしの右手では
川が龍のように陶然とうねっている
足元では、エゾリスの糞がちりちりと燃えている
夕暮れが近づき
無窮の空を丹頂鶴がねぐらを求めて帰って行く
だれに挨拶することもなく
わたしは人生を蕩尽してしまった
March
13, 2010
追記:
この詩は、James Wrightというアメリカの詩人の「ミネソタ、パインアイランド、ウィリアム•ダフィーの農場で、ハンモックに寝そべって」という詩に触発されて書いたものです。
奇しくもJames Wrightとわたしの誕生日が同じ12月13日であることが、とてもうれしい。
本歌の力を借りて、やっとこの歳になって、わが故郷、道東のあの圧倒的な量の空間を歌うことができました。James Wrightに感謝です。
また、この詩は当初、釧路湿原にてと題していたのですが、今は亡くなった森下さんが、詩の会の帰り際、一緒に立った夜の国立のプラットフォームで、横にいて、この詩を褒めてくれて、釧路湿原にてではなく、釧路湿原という題の方がよいと強くいったので、森下さんとの思い出の記念のためにも、そのように題を改めました。
わたしの当初の題は、その空間の中にいる人間を歌うことに焦点があったのですが、森下さんの思いは、これぞ釧路湿原ぞ、というところにあったと思っています。
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