2012年8月4日土曜日

【西東詩集8】Elemente(要素)


【西東詩集8】Elemente(要素)

【原文】

Elemente

Aus wie vielen Elementen
Soll ein echtes Lied sich nähren,
Dass es Laien gern empfinden,
Meister es mit Freuden hoeren?

Liebe sei vor allen Dingen
Unser Thema wenn wir singen;
Kann sie gar das Lied durchdringen,
Wird's um desto besser klingen.

Dann muss Klang der Glaeser toenen,
Und Rubin des Weins erglaenzen:
Denn fuer Liebende, fuer Trinker
Winkt man mit den schoensten Kraenzen.

Waffenklang wird auch gefodert,
Dass auch die Drommete schmettre;
Dass, wenn Glück zu Flammen lodert,
Sich im Sieg der Held vergöttre.

Dann zuletzt ist unerlässlich,
Dass der Dichter manches hasse;
Was unleidlich ist und hässlich
Nicht wie Schönes leben lasse.

Weiss der Sänger, dieser Viere
Urgewaltgen Stoff zu mischen,
Hafis gleich wird er die Völker
Ewig freuen und erfrischen.


【散文訳】

要素

どれほど数多くの要素から
本物の歌は、その身を養い、構成しているのだろうか
世俗の人間達が、その本物の歌を好んで感受するということ
それを聞くという事を、その歌は喜んで自分自身のものとするだろうか?、歌よ、そうせよ。

愛は、何よりも先にあらまほしきものだ
わたしたちの主題を、わたしたちが歌うたびに
愛は、一層その歌を貫き通し
それだけ益々よりよく響く事だろう

次に、ガラスの杯の響きが響かねばならぬ
そして、葡萄酒の紅玉が輝かねばならぬ
というのも、愛する者たちのために、飲む者たちのために
最も美しい冠を以って、ひとは合図をするからである。

武器の響きもまた、求められることである。
戦場のトランペットが高らかに鳴り響くということ
幸福が炎となって(祭壇で)燃えているというならば
勝利の内に、英雄よ、自らを神として祭るがよい

次に、無くてはならぬものとして最後に来るのは
詩人は、幾多のものを憎むということ
それは、不快で堪え難きものであり、憎むべきことに、
美しきもののようには、生かしめないものである。

歌い手は、これら4つの要素の
根源的な力の素材を混ぜ合わせることができる
ハーフィスのように、歌い手は、諸国民を
永遠に歓ばしめ、そして蘇生せしめるのだ。


【解釈と鑑賞】

この詩は、詩人が詩を書くための4つの要素について歌っている。

言葉は万人のものです。

この当たり前のことを忘れた現代の日本語の詩人達には、随分と耳の痛い詩だと思います。もし日本語の現代の詩人たちが、このゲーテの詩を理解することができたとして、ですが。

時代のせいにするようなこころは、詩人のこころではない。

そうゲーテは歌っているように聞こえるのです。また、戦いを忘れた詩人は、詩人ではない、とも。

そうして、現代の日本語の詩人の忘れたものの最たるものは、美、美しさである。

何故ならば、4つの要素とは、

1。まづ愛
2。グラスの杯の響き(酒)
3。戦いと英雄
4。美(美しさ)

これらのものであるからだ。

何も註釈を必要としない、ゲーテの質実で、剛健で、単純で率直な言葉を味わえば、それで、よいのではないでしょうか。

詩の構成要素と題して歌うこの構成要素、elementsという考えそのものが、そのまま光学や生物学でのゲーテの思想の根底にある考え方なのだと思います。

これは、ゲーテが、宇宙は、あるいは生命は機能の集合だと考えた人間であることを意味しています。

できれば、ゲーテの散文についても論じてみたいものです。

第2連で、

愛する者たちのために、飲む者たちのために
最も美しい冠を以って、合図をするからである。

とある合図とは、ひとは、愛する者たち、酒を飲む者たちを大切にし、褒め称えるということを言っているのでしょう。

日本風にいうならば、酒もまた雅事に属することなのです。往々にして、二日酔いを招来するにせよ。

最後の

ハーフィスのように、歌い手は、諸国民を
永遠に歓ばしめ、そして蘇生せしめるのだ。

という2行は、どの国、どの民族の詩人も、その国民、その民族のために、そのような優れた仕事をするものだということを歌っている。

確かに、ゲーテやハーフィスの詩はそのような詩であり、また日本の国の、日本民族の数々の詩の形式、即ち、万葉集の歌、連歌、俳諧は、そのような生命力を以て、わたしたちの生活を豊かにしてくれています。

日本語の現代の詩は、如何。






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