2012年8月10日金曜日

【西東詩集9】Erschaffen und Beleben(創造と生命を吹き込むこと)


【西東詩集9】Erschaffen und Beleben(創造と生命を吹き込むこと)


【原文】

Erschaffen und Beleben

Hans Adam war ein Erdenkloss,
Den Gott zum Menschen machte,
Doch bracht er aus der Mutter Schoss
Noch vieles Ungeschlachte.

Die Elohim zur Nas' hinein
Den besten Geist: ihm bliesen,
Nun schien er schon was mehr zu sein,
Denn er fing an zu niesen.

Doch mit Gebein und Glied und Kopf
Blieb er ein halber Klumpen,
Bis endlich Noah für den Tropf
Das Wahre fand, den Humpen.

Der Klumpe fuehlt sogleich den Schwung,
Sobald er sich benetzet,
So wie der Teig durch Säuerung
Sich in Bewegung setzet.

So, Hafis, mag dein holder Sang,
Dein heiliges Exempel
Uns führen, bei der Gläser Klang,
Zu unsres Schoepfers Tempel.


【散文訳】

創造と生命を吹き込むこと

ハンス•アダムは、土塊(つちくれ)であった
神が土塊を人間につくったのだが
しかし神は母の胎内から
まだまだ多くの、殺されざるものを運び出した。

神(エロヒム。強いものの意)が鼻の中へと入り
最良の精神をアダムに吹き込んだ
こうして、今や、アダムは既にして何かこうそれ以上のものになったようである
というのも、アダムがくしゃみをし始めたからだ。

しかし、骨格と四肢と頭とを以て
アダムは、半分塊のままであった。
ついに、ノアがその滴(しずく)のために
真実のもの、即ち取っ手のついた大杯を見つけるまでは。

土塊は、直ちに振動、飛躍を感じる
滴(しずく)で体が網の目に濡れるや直ちに
パンの種が酵母の発酵によって動き始めるように

お前の神聖なる模範(亀鑑)は
わたしたちを導くのだ、グラスの杯の響く中
わたしたちの創造主の寺院へと

【解釈と鑑賞】

前のElemente(要素)という詩で、詩人の制作する詩の4つの要素を歌ったゲーテは、この詩では、詩作と、創造という神の行為について、ハーフィスの力を借りて、歌っています。

詩作もまた、神の創造の行為と同じだと言っているのです。

詩人は人間であるが、神と同じように、命の無い土塊のような素材から、生命に溢れた生き物を創造する。それが歌である。その最たる歌い手が、ハーフィスである。

人間には精神が賦与されている。詩にも詩人は精神の力によって、生命を吹き込み、詩を創造する。

精神と生命の無い詩は、形だけのものであり、形式は整っているが半分はまだ生命の無い土塊だったアダムと同じである。

しかし、命の滴の一滴を入れるための、大きな杯を探すことだ。何故ならば、その一滴は、小さいものではなく、大きいものなのであり、それには大杯を用意する必要があるのだ。それが、詩人のなすべきことだ。詩の言葉を、そのように考えることだ。

そうすれば、直ちに詩作品は、自然の法則と自然の力によって、躍動する。パン種が酵母によって発酵するように。

それが、ハーフィスよ、お前の歌であり、お前の詩作品なのだ。

ゲーテは、そのように歌っています。

トーマス•マンならば、Vergeistigung und Beseelung、即ち、概念化とコンテクストの創造と直ちに答えたでありませう。前者が創造であり、後者が生命を吹き込むことに相当します。

それだけに、一層、第1連の

Doch bracht er aus der Mutter Schoss
Noch vieles Ungeschlachte.
しかし神は母の胎内から
まだまだ多くの、殺されざるものを運び出した。

という2行のvieles Ungeschlachte、「殺されざるもの」という言葉の選択には、ゲーテの詩に対する強烈な思い、そうやって詩作をし生き抜いて来たゲーテの強い意志を感じます。

Schlachtenとは、動物を屠殺すること、殺戮することであり、相当に血腥(ちなま)ぐさい、残虐、残酷な言葉です。

詩を創造するということは、こういった人間の行為に対しても揺るぎのないものを創造することだ。

それは、女性の胎内から生まれる。

この詩は、現代の愚かな詩人達、愚かな女性達、また愚かな男性達に是非読んでもらいたい詩のひとです。












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