2012年7月21日土曜日

【西東詩集6】Vier Gnaden(4つの恵み)


【西東詩集6】Vier Gnaden(4つの恵み)

【原文】

Vier Gnaden

Dass Araber an ihrem Teil
Die Weite froh durchziehen,
Hat Allah zu gemeinem Heil
Der Gnaden vier verliehen.

Den Turban erst, der besser schmückt
Als alle Kaiserkronen;
Ein Zelt, das man vom Orte rückt
Um überall zu wohnen;

Ein Schwert, das tuechtiger beschuetzt
Als Fels und hohe Mauern;
Ein Liedchen, das gefällt und nützt,
Worauf die Maedchen lauern.

Und Blumen sing ich ungestoert
Von Ihrem Shawl herunter,
Sie weiss recht wohl was Ihr gehört
Und bleibt mir hold und munter.

Und Blum' und Früchte weiss ich euch
Gar zierlich aufzutischen,
Wollt ihr Moralen zugleich,
So geb' ich von den frischen.


【散文訳】

4つの恵み

アラビア人が、その頼りとして
遥か彼方を快活に遍歴するために
アラーは、みなの旅の平安のために
4つの恵みを授けた

まづターバン、これはよりよく飾るもの
すべての王冠よりも
テント、これは場所を変えるもの
至るとこに住むために

剣(つるぎ)、これはより役立ち護るもの
巌(いわお)と高い壁よりも
歌、これは好ましく、役立つもの
乙女達が焦がれて、聴き耳を立てるもの

そして、花々をわたしは存分に歌う
あなたの肩掛けから落ちるのを
彼女は自分に属するものを誠によく知っている
そして、いつも、わたしに優しく、こころを明るくしてくれる

そして、花々と果物を、お前達のために
卓上に全く綺麗に飾って、並べることができる
もしお前達が同時に道徳を求めるならば
わたしは新鮮な道徳の中から取って、お前達に与えよう。


【解釈と鑑賞】

この詩の題名は、4つの恵み。

その4つの恵みとは、ターバン、テント、剣に歌。

その目的とは、アラビア人たちが長い旅をするのに、一路平安を保証するため。

と、1連、2連までを歌って、3連、4連と、歌の調子が、言わば転調をします。

3連は、アラーの神の肩掛けから花々が落ちて来ることを歌うといい、それに続けて、彼女(恋人でありませう)のわたしに与えてくれる状態を歌っています。

4連は、お前達という複数2人称で、アラビア人達に呼びかけ、食卓を花と果物で飾り立てることと、アラビア人達がモラルを求めるならば、花々と果物のように、それらと同様に新鮮な(複数の)道徳の中から、アラビア人達のための道徳を取り出して、与えようと歌っています。

4つの恵みを歌った最初の2連と、後の2連の調子とモチーフは異なりますが、しかし、ゲーテはこれらをひとつの詩としてまとめた以上、これらふたつの纏まり同士は、釣り合っている筈です。

疑問は、何故ゲーテは3連で、アラーの肩掛けからの落花のことをいい、恋人のことをいったか、

何故4連で、花と果物で食卓を飾ることをいい、アラビア人達に与える道徳のことをいったかということです。

こうしてみると、わたしはリルケの晩年のふたつの詩、即ちデゥイーのの悲歌とオルフェウスへのソネットにある典型的な詩人の詩作法を思い出します。

リルケの詩作法は、大きな転調と飛躍をしばしば持ち、読者を理解の外におくかのようにして、読者を放り投げるところがありますが、この詩の構成にも、類似の、詩人のこころを、わたしは感じ取ります。

即ち、そのこころとは、このようなこころです。

ゲーテは、この詩中のわたしとなって、どこかのオアシスに、神の加護を十分に受けて、恋人と暮らし、花と果物で宴席を設けて、やって来た長途のアラブ人達の旅の苦労を労(ねぎら)う。

そうして、アラブ人たちがわたしに問う、このような場所に苦労もせずに、好きな女とだけ暮らしていていいのか?と。

しかし、わたしは自由であり、既にFreisinn(自由の感覚、自由の志操)で、そのこころを歌っている通りに暮らしているのであり、タリスマンという護符に守られた生活を、神の加護のもとにしているのである。

それは、世上の道徳ですら、また旅の生活の道徳ですら、自由に創造することができる身分であり、地位であり、暮らしであるのだ。

さあ、道徳の中でも、今神から与えられ、またはわたしが知り、創造した道徳をお前達に授けよう。それは、恰も卓上の新鮮な花や果物ように、新鮮な道徳である。

今までの、ここまで読んで来た詩篇の創造するコンテキストの中読むと、このような解釈となるでせう。

詩を作るということは、このような創造行為なのだと、この詩中のわたしのこのような考えについても、また詩外からこの詩を書いたゲーテという詩人のことを眺めても同様に、そのように思うのです。

素晴らしい詩篇だと思います。

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