2012年7月14日土曜日

第30週: Lange Zeit (長い時間) by Robert Walser (1878 - 1956)



第30週: Lange Zeit (長い時間) by Robert Walser (1878 - 1956) 

【原文】

Lange Zeit

Ich tu mir Zwang,
zu scherzen und lachen.
Was soll ich machen?

Gewohnten Gang,
im mueden Herzen,
gehen alte Schmerzen.

Ich muss den Hang,
zu weinen, bezwingen,
nebst andern Dingen.


【散文訳】

長い時間

わたしに、冗談を言ったり、そして笑ったりする
衝動が湧く。
どうしたらよいのだ?

いつもの成り行き(道)を
疲れたこころの中で
古い冗談が辿る

わたしは、泣き虫の性癖を
他の色々な物の他に
強いなければならない。


【解釈と鑑賞】

この詩人はスイスの詩人です。

ロベルト•ヴァルザーの英語のWikipediaです。

http://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Walser_(writer)

最後の写真が載っているウエッブページがあります。散歩中に心臓麻痺で雪の中で倒れて、息をひきとりました。

http://www.stephanelambert.com/2010/07/01/robert-walser/

わたくしも20代の初めに、この作家の奇妙な味のする短編に幾つか触れたことがあります。

わたくしにとっては、印象の深い作家のひとりです。

難しい言葉で書かれているわけではありません。易しい言葉で書かれている詩ですが、この詩人の短い散文と同様に、何か不可解なものを感じさせる詩です。特に、第3連は。

冗談や笑いは衝動であるのに対し、泣き癖は性癖であるという対比です。

第1連の「古い冗談」は、懐かしい冗談とも訳す事ができます。

しかし、何か不可解である。と思って、この不可解の理由を考えると、第4連が欠落しているからだということに思い当たりました。

上に書いたように、第1連は第2連はひとつのまとまりを持っています。

これに対して、第3連は第4連を持っておりません。もし第4連を、この詩全体の均衡を考えて第4連を書くとすると、例えば次のようになるでしょう。

Ungewohnten Gang,
im gemunterten Herzen,
gehen neue Freuden.

非凡な道を
こころ楽しく
新たな喜びは行く

しかし、この一連があったとして、それで詩になるでしょうか。全然詩にはならないのだと思います。

全くの余白、投げ出したような空白があって、それとそれ以外の文字で書かれた言葉が釣り合っている。

思えば、これはロベルト•ヴァルザーの創作の秘密ばかりであるのではなく、どのような芸術家の創作の淵源であるのではないでしょうか。即ち、欠落の感覚は。

この詩は、一行毎にコンマがあって、短い句の並んだ詩となっています。その句のコンマのひとつひとつの所で、詩人は溜め息をついているように思います。詩人の溜め息が聞こえる。言葉の意味、一行の意味を分解するような。

そうして、この詩の題に戻って考えると、そのような長い時間を過ごして来たといっているのです。

第3連の「他の色々な物の他に」の「他の色々な物」という言葉に、こうして考えて来ると、実に様々な含みがあります。










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