2012年12月8日土曜日

第51週: Der Weihnachtsstern by Joseph Brodsky (1940 - 1996)




第51週: Der Weihnachtsstern by Joseph Brodsky (1940 - 1996)


【原文】

Der Weihnachsstern

Im frostigen Winter war eine Gegend - gewöhnt an Glut
mehr als an Kälte, an Fläche mehr als an Berge - offenbar gut
für die Geburt des Kindes, das da kam zu retten die Welt.
Der Schnee fiel in solchen Mengen, wie er nur in der Wüste fällt.

Dem neugeborenen Kind kam alles gewaltig vor:
die Brust der Mutter, die Nüstern des Ochsen, Kaspar, Melchior,
Balthasar und deren Geschenke, die man hereintrug. Den Kern
bildetet aber das Kind selber. Und das war der Stern.

Aufmerksam, ohne zu zwinkern, durch Wolken, die dünn und vag,
hat von fern auf das Kind, das da in der Krippe lag,
vom anderen Ende des Kosmos, kaum wahrnehmbar,
der Stern in die Hoehle geschaut. Der das Auge des Vaters war.

24. Dezember 1987


【散文訳】

聖夜の星

霜降る冬に、ある土地があった ― それは、寒さよりも多く
白熱の土地であり、山よりも平野の土地だった。明らかに
世界を救うためにやって来た子供の生誕のためにはよい土地だった。
雪が荒野にのみ降るように、そういったあらゆるものたちの中に降っていた。

新たに誕生した子供には、すべてが暴力的に見えた。即ち、
母の胸、雄牛の鼻を鳴らす音、カスパール、メルキオール、
バルタザール、そして、これらの者が持って来る贈り物が。核心を
形成するのは、しかし、その子供自身なのだ。そして、それが星であった。

注意深く、瞬きすることなく、薄くぼんやりとした雲を通して
遠くから、風邪をひいいて横になっているその子供へと
宇宙の反対側から、ほとんどそれと知られないように
星が洞窟の中を見たのだ。父親の眼であるその星が。

1987年12月24日


【解釈と鑑賞】

この詩人は、わたしの大好きな詩人のひとりです。

ゲーテ、アイヒェンドルフ、リルケ、ブロツキー。

この詩人のWikipediaです。


冷戦時代のソヴィエト連邦の、いややはりロシアのというべきでしょう、ロシアの詩人です。

1972年に共産主義国家ソヴィエと連邦から国外追放の刑を受け、W.H. Audenの支援を受けてアメリカに移住しています。

1987年にノーベル文学賞を受賞。

ブロツキーの詩は政治的では全然ありません。政治と無縁です。その詩がソヴィエト連邦という共産主義国家で弾圧を受けたということは、誠に人間の愚かしさを証明して余り在るものがあります。共産党はブロツキーが自らを詩人と名乗ることに対して、これを全く否定します。裁判官との問答は圧巻です。Wikipediaから、英語でそのまま引用します。

The trial judge asked "Who has recognized you as a poet? Who has enrolled you in the ranks of poets?" — "No one," Brodsky replied, "Who enrolled me in the ranks of the human race? "Brodsky was not yet 24.

これと同じ位苛烈な、裁判官と詩人の問答を、わたしは詩人石原吉郎の知己であった鹿野武一という人間が、同じ共産党のロシアの収容所で尋問官と交わした問答にみます。お前が正しいならば、わたしが人間ではない。わたしが正しいならば、お前は人間ではない。と言う問答に。

ブロツキーの詩は、詩の最後に必ず書いた日付が書かれています。

これは、ノーベル文学賞を貰った歳のクリスマスに書かれた詩だということがわかります。

カスパール、メルキオール、バルタザールは、キリスト生誕のときに、東方から来た3博士の名前です。

宗教的な伝説を踏まえて、それを全く今風、今様に作り替えている詩だということがわかります。

最初にこの世に生を享け、接した物事に対する感受の仕方を歌い、それをはっきりと子供だといい、子供は星であり、星は父親の眼であるという、この三段論法でこの詩は成立しているようです。

わたしの好きなBrodkyの詩を、クリスマスの詩として訳すことのできることに感謝致します。






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