2012年11月10日土曜日

【西東詩集21】 Fetwa(ファトヴァ)



【西東詩集21】 Fetwa(フェトヴァ)


【原文】

Fetwa

Haffs' Dichterzüge sie bezeichnen
Ausgemachte Wahrheit unasuloeschlich;
Aber hie und da auch Kleinigkeiten
Ausserhalb der Grenze des Gesetzes.
Willst du sicher gehen, so musst du wissen
Schlangengift und Theriak zu sondern -
Doch der reinen Wollust edler Handlung
Sich mit frohem Mut zu überlassen,
Und vor solcher der nur ewge Pein folgt
Mit besonnenem Sinn sich zu verwahren,
Ist gewiss das Beste um nicht zu fehlen.
Diese schrieb der arme Ebusuud,
Gott verzeih ihm eine Sünden alle.

   
【散文訳】

フェトヴァ

ハーフィスの詩人の筆は、それを言い表している
即ち、完全な真理を、消し難きほどに
しかし、あちらこちらで、小さな事柄についてもまた言っている
法の境界の外側で。
お前が確実に歩みたいと思うならば、お前が知らなければならないのは
蛇の毒とテリアク(ヨーロッパ中世の解毒練り薬)を分けることだ
しかし、それだけではなく、高貴な振る舞いの純粋な欲望に
敬虔なる勇気を以て身を捧げることであり、
そして、ただ永遠の苦悶のみを追いかけるそのような女性から
思慮深いこころを以て身守ることであり
間違いなく、最善のことは、欠けることなきようにとあることである。
このことを、哀れなるエブスードが書いた
神よこの者の罪をすべて赦し給え



【解釈】

わたしの読んでいる西東詩集の註釈によれば、この詩と、前のAnklage(告発)、そして、Der Deutsche dankt(このドイツ人が感謝する)という3つの詩は、ひとまとまりの3連作だと言っています。そのつもりで、この詩を読むことにしましょう。

前の詩は、ゲーテの、法律家どもに対する告発の詩でした。その詩で法律と法律家を皮肉り、世間に真っ向から挑戦をしていました。

しかし、お前達が正しいのではない、コーランの教えを血肉にして自由闊達な歌を歌う詩人、ハーフィスこそ、そうしてその遺髪をドイツにおいて継ぐ、このわたしこそ正しい者だというゲーテの声が聞こえて来ます。

さて、この詩では、ゲーテは何を歌っているのでしょうか。

Wikipediaに、この詩の題であるFetwaについての説明がありましたので、それをひくことにします。

http://ja.wikipedia.org/wiki/ファトワー

題名のFetwaとは、Wikipediaによれば、

ファトワー (Fetwa) とは、ムフティーと呼ばれる、ファトワーを発する権利があると認められたウラマー(イスラム法学者)が、ムスリム(イスラム教徒)の公的あるいは家庭的な法的問題に関する質問に対して、返答として口頭あるいは書面において発したイスラム法学上の勧告のことである。ファトワー自体には法的拘束力はないが、著名なムフティーによるファトワーはファトワー集に編纂され、各イスラム法学派の個別事例に対する見解を示すものとして重視された。

日本語では、ファトワーと呼ばれていますが、ドイツ語の発音をそのまま写して、フェトヴァと記することに致します。

ハーフィスの言葉が「あちらこちらで、小さな事柄についてもまた言っている法の境界の外側で。」というところが眼目です。ハーフィスの言葉は、法律の外側にも、そこにある小さきことについても、完璧なる真理を言っているというのです。

このゲーテの言葉に、わたしたちは傾聴することに致しましょう。

「間違いなく、最善のことは、欠けることなきようにとあることである。
このことを、哀れなるエブスードが書いた
神よこの者の罪をすべて赦し給え」

最善のことが、欠けることない状態であること、このことをエブスードが書いたということ。このエブスードはアラビアの人の名前ですが、この名前を聞いて、太郎とか花子とかいうように、アラビア人には通用する表象があるのだと思います。

それは、日本語の世界ならば、どうも一介の何の何兵衛、何の何太郎という名前のようです。

このエブスードとは、ゲーテ自身のことだと思われます。

そうして、神にその罪のすべての赦しを乞うております。


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