【西東詩集28】 An Hafis(ハーフィスに寄す)
【原文】
An Hafis
Was alle wollen weisst du schon
Und hast es wohl verstanden:
Denn Sehnsucht hält, von Staub zu Thron,
Uns all in strengen Banden.
Es tut so weh, so wohl hernach,
Wer sträubte sich dagegen?
Und wenn den Hals der eine brach,
Der andre bleibt verwegen.
Verzeihe, Meister ― wie du weisst
Dass ich mich oft vermesse ー,
Wenn sie das Auge nach sich reisst
Die wandelnde Zypresse.
Wie Wurzelfasern schleicht ihr Fuss
Und buhlet mit dem Boden;
Wie leicht Gewölk verschmilzt ihr Gruss,
Wie Ost-Gekos' ihr Oden.
Das alles drängt uns ahndevoll,
Wo Lock an Lock kraeuselt,
In brauner Fuelle ringelnd schwoll,
So dann im Winde säuselt.
Nun öffnet sich die Stirne klar
Dein Herz damit zu glätten,
Vernimmst ein Lied so froh und wahr
Den Geist darin zu betten.
Und wenn die Lippen sich dabei
Aufs niedlichste bewegen,
Sie machen dich auf einmal frei
In Fesseln dich zu legen.
Der Athem will nicht mehr zurück,
Die Seel zur Seele fliehend,
Gerüche winden sich durchs Glueck
Unsichtbar wolkig ziehend.
Doch wenn es allgewaltig brennt
Dann greifst du nach der Schale:
Der Schenke läuft, der Schenke kommt
Zum erst- und zweitenmale.
Sein Auge blitzt, sein Herz erbebet,
Er hofft auf deine Lehren,
Dich, wenn der Wein dein Geist erhebt,
Im höchsten Sinn zu hören.
Ihm öffnet sich der Welten Raum,
Im Innern Heil und Orden,
Es schwillt die Brust, es braeunt der Flaum,
Er ist ein Jüngling worden.
Und wenn dir kein Geheimnis bliebe
Was Herz und Welt enthalte,
Dem Denker winkst du treu und lieb,
Dass sich der Sinn entfalte.
Auch dass vom Throne Fürstenhort
Sich nicht für uns verliere,
Gibst du dem Schah ein gutes Wort
Und gibst es dem Vesire.
Das alles kennst und singst du heut
Und singst es morgen eben:
So trägt uns freundlich dein Geleit
Durchs rauhe, milde Leben.
【散文訳】
ハーフィスに寄す
皆が臨むものを、お前は既に知っている
そして、よく理解したのだ。
何故ならば、憧れが、塵から玉座に至るまで
わたしたち皆を、強い紐帯の中に保っているからだ。
かくも悲しいことだ、かくも間違いなくこうして今迄
誰がそれに逆らうだろうか?(逆らうものはいない)
そして、もしある者が首を折って殺したならば
他の者は、卑怯なもののままということになる。
(それほど、憧憬があらゆる者に通じていて、互いを結びつけていることは、当たり前なのだ。)
赦されよ、悟達の人よ、お前が知っている通りに
わたしは、しばしば測りそこなって、僭越なことをしてしまう
さまよう糸杉が、眼を自らに無理矢理に向けるたびごとに
どうやって、糸杉の足は、根っこの繊維に沿って、こっそりと歩き
そして、地面と恋の戯れをするのだろうか
雲の峰は、何とやすやすと、糸杉の挨拶を溶解するのだろうか
東の国(ペルシャ)の愛撫が、その呼吸を溶解するように。
こういったこと総てが、わたしたちを予感に満ち満ちて圧迫する
巻き毛が巻き毛に波打つところで
茶色の充溢の中に、巻いて膨らんだところで
そうして、そうすると、風にそよぐところで。
さてこうして、額が明瞭に開き
お前の心臓を、それによって磨き
ひとつの歌が、かくも陽気に、そして真実に
その中に精神を寝かせる歌を聞きとるのだ。
そして、唇(くちびる)が、そこで
一番きれいに動くのであれば
その唇は、一時(いちどき)に、お前を自由にする
お前に足枷を嵌めることから
息は、再び戻りらず
魂から魂へと逃げ
香りは、幸福を通って、うねって行く
眼に見えぬ雲のように行きながら
しかし、全能の力を以て燃える場合には
お前は、酒杯に手を伸ばして、これを掴みとる
酌人が走り、酌人が来る
初めて、そして2回目と。
酌人の眼は、輝き、その心臓は戦(おのの)く
酌人は、お前の数々の教えを聞く事を願う
お前を、酒が精神を持ち上げるたびに
最高の意義、最高の感覚で、聞くために。
酌人に、世界の空間は開く
内部には、安寧と結社がある
胸はふくらみ、産毛が茶色になる
酌人は、若者になった。
そして、お前には秘密などはないのであれば
心臓と世界を含むものがないのであれば
考える者に、お前は忠実に、そして愛を以て、合図をする
意義が、感覚が、開いて行くと。
また、玉座から、王侯の財宝が
わたしたちのためには、失われないのだと
シャーに、ひとつのよき言葉を与えよ
そして、それを、ヴェジーレに与えよ。
このようなこと総てを、今日、お前は知り、そして歌うのだ。
そして、明日もまた、それを歌う。
このように、わたしたちを、親しく、お前の随行が運んで行くのだ
粗野で、柔らかい人生を通じて
【解釈】
Hafisの巻の最後の詩が、このハーフィスに寄すと題した詩です。
この詩をこうして読むと、今迄の詩は、みなこの詩を書く為の、露払いの詩だということが判ります。この詩、ハーフィスへの思いを純粋に、純潔に歌うために、その時間と場所を清浄に払い浄めて、ゲーテはこの詩を書き、最後の位置に置いたのです。
この詩の中で、ゲーテは、自分自身を糸杉に譬えたり、酌人になったりしながら、ハーフィスへの思いを歌っています。
糸杉の写真がWikipediaにあります。
http://de.wikipedia.org/wiki/Zypressen
この説明を読むと、常緑樹ということですから、そのいつまでも若さを保つこと、生き生きとして変わらぬことの象徴なのでしょう。しかし、もっとヨーロッパの歴史の中で、この樹木の持っている深い象徴的な意味があるのではないかと思います。
そうして、この詩に限らず、今迄も出て来ましたが、der Sinn、意義、感覚という言葉が、ここでも出て来ています。これは、ゲーテがハーフィスを理解するときのキーワードなのです。
実に官能的に、ゲーテはハーフィスを理解しています。文字通りに生理的な、五感の感覚を通じてという意味と同時に、官能的な、エロティックなという意味で。
前者については、この感覚を通じてハーフィスと照応関係を持っていることが、ゲーテにとって、大切な意義と意味を持っているのです。
後者の感覚については、Suleikaとの詩篇となって、ゲーテ自身がハーフィスに変身して、これから歌われることになるのでしょう。
最後から2連目のVesire、ヴェジーレという語の意味は、次のWikipediaに載っています。
http://de.wikipedia.org/wiki/Wesir
これは、ペルシャ語由来の言葉で、カリフの代理を務めることのできる、補佐役の官職の名前です。これは、ゲーテ自身の、ワイマール王国での立ち場に重ねているのでしょう。