第14週:Unerwartet(思ひ掛けずに)by Nora Gomringer(1980- )
【原文】
Stand keiner an der Wand
Am Tor
Vor der Stadt
Stand keiner, sah keiner
Kam ich nicht, blieb fern
War noch nach Jahren
Kein Gespräch
Lief eine Strecke ohne das Gras
Flach zu drücken, hinterliess
Nichts, schon nichts an, war
In keiner Frau gezeugt
Kein Gedanke
An mich hielt einen wach,
Der die Kerze löscht
Und sein Lager teilt
Unerwartet
【散文訳】
誰も壁に立つてゐなかつた
門にも
町の前の
誰も立つてはゐなかつた、誰も見てはゐなかつた
私は来たのではない、遠くに離れてゐたのだ
何年も経つてもまだ
誰とも会話がなかつた
草が平らにならないやうにして、
一区間を駆けてみたが、何も
後に残さなかつた、もう最初から何にも突き当らなかつた、なかつた
どの女の中にも生まれなかつた
どんな考へも
或る男を夢見ることなく覚めたままに抱きしめてゐた
蠟燭を消して
そして、その寝床を分けてくれる男を
思ひ掛けなくも
【解釈と鑑賞】
この詩人は、ドイツ語の詩人です。父親がスイス人、母親がドイツ人。ともに教養のある両親の唯一の娘とあります。そのやうな説明で始まるWikipedaです。
最後の一行をなす一言、思ひ掛けなくもといふのが効いてゐます。即ち、何かを狙つて何かを得るといふのではなく、何か為にする行為を好むのではなく、全く純粋にゐて、無私で、しかし此の詩を読む限り何かかう、從ひ心中苦しさうで、さうしてそのやうな自分を実は反対に抱きしめて呉れるそんな男を求めてゐる。「或る男を夢見ることなく覚めたままに抱きしめてゐた」と最後から4行めに、女性である自分が抱きしめるのだと歌つてはゐるものの。
男にも幻滅してゐたのでせうか、異性には何も期待しないほどに。女性の孤独といふものも、何か、日本語ならば、もののあはれを感じるとふところではないでせうか。
人は偶然に頼つて生きられるほど強くはない。
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