2015年8月15日土曜日

Wenn einer fortgeht(もし立ち去るならば):第31週 by Ingeborg Bachmann(1926~1973 )


Wenn einer fortgeht(もし立ち去るならば):第31週 by Ingeborg Bachmann1926~1973 )    



【原文】

Wenn einer fortgeht, muß er den Hut
mit den Muscheln, die er sommerüber
gesammelt hat, ins Meer werfen
und fahren mit wehendem Haar,
er muß den Tisch, den er seiner Liebe
deckte, ins Meer stürzen,
er muß den Rest des Weins,
der im Glas bliebe, ist Meer schütten,
er muß den Fischen sein Brot geben
und einen Tropfen Blut ins Meer mischen,
er muß sein Messer gut in die Wellen treiben
und seinen Schuh versenken,
Herz, Anker und Kreuz,
und fahren mit wehendem Haar!
Dann wird er wiederkommen.
Wann?
      Frag nicht.



【散文訳】


もし誰かが立ち去るならば、帽子を
夏中かけて集めた貝殻と一緒に、海の中に投げなければならない
そして、風になびく髪をして、車で行くのだ
愛する女性のために用意をした食卓を
海の中に突き落とさなければならない
グラスに残つた葡萄酒の残りを
海に振り撒かなければならない
魚たちに、自分のパンを与へなければならない
そして、一滴の血を、海の中に混ぜなければならない
自分の持つてゐるナイフを、きちんと波々の中に追ひやつて
そして、自分の靴を沈めなければならない
心臓(こころ)、錨(希望の象徴)と十字架
そして、風になびく髪をして、車で行くのだ!
すると、もう一度戻って来ることになる。
いつ?
  尋ねるのは野暮な話だ。




【解釈と鑑賞】


この詩人は、1926年生まれのオーストリアの詩人です。


20世紀のドイツ語圏の最も重要な抒情詩人であり、散文家であるとあります。

1977年より、この詩人を祈念して、インゲボルク・バッハマン賞が創設されてゐます。


もし誰かが立ち去るならば、といふ最初の条件文に対する主文が、~ねばならないといふ文として、幾つも詠まれてゐます。そのやうな形式の詩となつてゐる。

主文の行為は、みな出発するために捨てたり、誰か(魚)に施したりするといふ与へるだけの無償の行為です。

これらの行為は、みな、「心臓(こころ)、錨(希望の象徴)と十字架」を以つて、これらのために行はれ、「風になびく髪をして、車で」出発するのは、そのためであるのです。或いは、立ち去るといふことが、これら3つを必要とするといふこと。

最後の3行、

すると、もう一度戻って来ることになる。
いつ?
  尋ねるのは野暮な話だ。

といふ此の3行に、話者の、旅に出て生きることの確信があるのです。

必ず戻つて来るといふこと。いつといふ未来の時間は確約できないといふこと。それを尋ねることは野暮だといふこと。

これが、立ち去るといふ意味である、と。

してみると、海に捨てたすべての物たちが、帰つて来た時には、再びいつか蘇るかの如くに思はれる。いつとは確約はできないが。


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