2011年3月19日土曜日

Moelkerbastei (メルケル式陵堡):第13週

Moelkerbastei (メルケル式陵堡):第13週

by W.G. Sebald (1944 - 2001)


【原文】

Beethovens Zimmer
Ist aufgeraeumt jetzt

Die Bilder gerade
Die Vorhaenge gewaschen
Und jede Woche die Boden
aufs Neue gewienert

Den Sessel aber
Hinter dem Fluegel
Hat man beseitigt

Dennoch kommt er manchmal
des Nachts und Komponiert was
Im Stehen

Als Vorschrift nur
Mit dem Hoerrohr
Zu hoeren


【散文訳】

ベートーベンの部屋が
今では、すっかり整理整頓されている。

壁に掛かっている絵も真っ直ぐに
カーテンも洗濯されて
そして、毎週、床も
新しく、ピカピカに磨かれて

しかし、グランドピアノの後ろの
椅子は片付けられてしまっていた

それでも、ベートーベンは、何度も
夜にやってきて、そうして、立ちながら
何かを作曲している

そのときの規則は、ただ
聴管を以て
耳傾けるというものだが


【解釈】

この題名のMoelkerbasteiというのがわかりません。

Moelker、メルカーというのは、ひとの名前のようですから、メルカーさんというひとが発明したBasteiということなのでしょうか。

Bastei、バスタイというのは、意味がふたつあって、エルベ川を臨む奇岩群という意味と、戦争用語で、Bastionとも異称されて、陵堡(りょうほ)という意味があります。

BasteiをGoogleの画像検索で検索すると、圧倒的にエルベ川の奇岩群の写真がたくさん出てきます。

Bastei、バスタイの異名、Bastion、バスティヨーンで検索すると、お城の堡塁が写真でたくさん出てきます。

ここでは、後者の戦争用語で、メルカー式陵堡と訳しておきます。

これが、どのようなものかは、次のWikipediaの説明と写真を御覧ください。

http://en.wikipedia.org/wiki/Bastion

さて、この詩の題が、そうだとして、それがこの詩の内容とどう関係があるのか。

晩年耳の聞こえなくなったベートーベンが、聴管という音を聞くための補助器具を使って作曲するということが、城塞でいう陵堡ということなのでしょうか。あるいは、そうするという規則が。

この詩での、この詩人の言葉の使い方で目立つのは、動詞の省略です。

ただ、名詞または名詞相当語句を置いている。

2連と最後の連が、そういう表現になっています。

訳では、言葉を補いましたけれども。

この詩人がどういう詩人であるかは、次のURLアドレスを御覧ください。

http://en.wikipedia.org/wiki/W._G._Sebald

http://de.wikipedia.org/wiki/W._G._Sebald

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ウィーン案内をするために「Bastei」の適切な訳語を探していて、偶然貴HPにたどり着きました。
貴殿ご指摘のとおり、Basteiの訳語としては陵堡、堡塁などがあるようですが、Mölker Basteiはウィーン1区内の住所ですので、そのままカタカナでメルカー・バスタイとするのが適切ではないかと思い至りました。
ここにあるPasqualati-Hausにはベートーベンが1804年から1815年の間に複数回住んだ部屋があり、現在ではベートーベン博物館として公開されています。この詩はおそらくその博物館の様子を描写したものだと思います。(同じ建物内にはアーダーベルト・シュティフターが住んでいた時期があり、そちらの部屋も博物館として公開されています)
また最終節の「Vorschrift」は規則という意味より、雛形(テンプレート)という意味ではないでしょうか。そこから最終節は「あのお馴染みの、補聴器を耳にあてた姿で」とでも訳せるのではないかと思います。
ちなみにこのBasteiはかつて多くのヨーロッパの都市がそうであったように、ウィーン市が壁に囲まれた都市であったころの、都市の境界としての壁の名残です。その意味では、都市を外界から守る「陵堡」であったと思います。
以上、差し出がましい乱文お許しいただければ幸いです。
http://de.wikipedia.org/wiki/M%C3%B6lker_Bastei

takranke さんのコメント...

匿名さま、

コメントありがとうございます。回答が遅くなり申し訳ありません。

なるほど、ウィーンのそのような具体的な地名、住所と建物があったのですね。

わたしは、専ら、言葉の側から入ってきて、訳をしておりますので、このようなコメントは、誠にありがたく。

お読みくださって、どうもありがとうございます。