2015年6月13日土曜日

【Eichendorfの詩121】 An…(誰某へ)


Eichendorfの詩121 An…(誰某へ)
  

【原文】
Wie nach festen Felsenwänden
Muss ich in der Einsamkeit
Stets auf dich die Bleck wenden.
Alle, die in guter Zeit
Bei mir waren, sah ich scheiden
Mit des falschen Geuztes Schaum,
Du bliebst schweigend mir im Leiden,
Wie ein treuer Tannenbaum,
Ob die Felder lustig blühn,
Ob der winter zieht heran,
Immer finster, immer grün -
Reich die Hand mir, wacker Mann.


【散文訳】

誰某へ

固い岩壁を求めるやうに
わたしは、孤独の中に
絶えずお前の方へ、眼差しを向けずにはゐられない。
総ての、良き時代の中で
わたしの側にゐた人たちが皆、別れるのを見た
間違つた幸福の泡と共に
お前は、沈黙して、わたしの苦悩の中に残つた
一本の、忠実なる樅(もみ)の木のやうに
野原といふ野原が陽気に花咲かうが
冬がやつて来ようが
いつも陰(かげ)あり、いつも青々としてゐてー
お前の手を寄越しなさい、勇敢なる男よ。


【解釈と鑑賞】

この詩は、このやうな友がゐたといふやうにとつてもよいし、さうでなくとも、この友を詩人のもう一人の自分だととつてもよいでせう。

そのやうな自己の外の他者、自己の中の他者を、樅木に喩えるといふ此のドイツの詩人の譬喩(ひゆ)から、わたしたちは、ドイツ人が此の木をどのやうに思つてゐのかを知ることができて、興味深いものがあります。

樅木は、時節にも流行にも流行り廃りにも変わることなく、そこに立つ樹木としてあるのです。しかあればこそ、わたしも樅木でありたい、勇敢なる男よ。




0 件のコメント: