2016年2月14日日曜日

第6週:Decimas Lied I(1未満の男の歌 I)by William Butler Yeats(1865-1939)


 第6週:Decimas Lied I(1未満の男の歌 Iby William Butler Yeats1865-1939   








【原文】

Ach wäre ich ein alter Bettler
Und hätte keinen Freund,
Ein Diebischer und blöder Hund
Schon von Geburt an blind,
Oder irgendwer, nur nicht ein Mann,
Der allein sein Bett eindrückt
Und denkt an eine schöne Frau,
allein und ganz verrückt.


【散文訳】

ああ、私が年老いた乞食であって
そして、友達もなく
盗人のやうな、愚かな犬であって
既に、生まれつき盲(めくら)であるならばなあ、
あるひはまた、何処の誰か、つまり単に一人の男といふだけではなく
孤独に、自分の寝床(ベッド)を押し付け
そして、一人の美しい夫人のことを思ふ
孤独に、そして全く気が狂つて、その美しい夫人のことを思ふ
そのやうな何処の誰かであればなあ


【解釈と鑑賞】


この詩人は、言はずと知れたイギリスの詩人です。



日本語のWikiには、次のやうにあります。:

ウィリアム・バトラー・イェイツは、アイルランドの詩人、劇作家。イギリスの神秘主義秘密結社黄金の夜明け団のメンバーでもある。ダブリン郊外、サンディマウント出身。作風は幅広く、ロマン主義、神秘主義、モダニズムを吸収し、アイルランドの文芸復興を促した。日本の能の影響を受けたことでも知られる。


Decimal Liedとは、Decimaの歌といふ意味ですが、Decimaとは数字の整数と其の後の下何桁を表す時の小数点のことですから、この題名の解釈は次の二つです。

1。decimalな人間の歌といふことから、小数点そのものの人間の歌
2。deicimalな人間の歌といふことから、小数点以下の人間の歌

といふ二つの解釈です。

私は、後者をとりました。

さうして、敢えて、1未満の男とした次第です。

これは、もう同じノーベル文学賞を受賞したロシアの詩人、Josesph Brodskyと同じ発想の詩です。Brodskyの詩に、『Less Than One』と題したエッセイ集があります。訳すれば、『1未満』。

ノーベル賞を受賞こそしませんでしたが、何度も候補に挙がつた安部公房の傑作小説の題名であれば、『箱男』といふ小説の主人公に匹敵する事でせう。

更に、想を伸ばせば、この小説の原型ともいふべき同根の主人公、あのリルケの『マルテの手記』のマルテもまた、みづからを乞食ですらない、乞食未満の人間として思つてをりますから、マルテもまた、イェーツによれば、Decimaといふことになりませう。

Ach wäre ich」と、接続法II式で始まりますから、この男はこの世には存在しない人間なのです。たとへ、乞食であつたとしてさへも。










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