2013年4月20日土曜日

【西東詩集42】 Geheimes(秘密)



【西東詩集42】 Geheimes(秘密)


【原文】

Geheimes

Ueber meines Liebchens Aeugeln
Stehn verwundert alle Leute;
Ich, der Wissende, dagegen
Weiss recht gut was das bedeute.

Denn es heisst: ich liebe diesen,
Und nicht etwa den und jenen;
Lasset nur ihr guten Leute
Euer Wundern, euer Sehnen!

Ja, mit ungeheuren Maechten
Blicket sie wohl in die Runde;
Doch sie sucht nur zu verkünden
Ihm die nächste Süße Stunde.


【散文訳】

秘密

わたしの恋人の可愛らしい両眼の上に
不思議に思って、すべてのひとが立ち止まっている
わたし、智者は、それに対して
まさしく、それが何を意味するかを知っているのだ。

何故ならば、それの意味するところは、わたしはこの男を愛しているということだからだ
そして、例えば、これとか、あれという男ではないのだ
お前達、善良な人々よ
お前達の驚きをそのままに、お前達の憧れをそのままにしておくがよい。

彼女を、きっと一座の団欒の中にみるがいいのだ
しかし、彼女は、ただ告げ知らせようとするだけだ
恋人に、次の甘い時間があると



【解釈】

満座の中で、気持ちの通じ合ったことを知っている詩人のこころを歌った詩なのでしょう。

その場の誰も知らないが、わたしと恋人だけに情が通っていることを知っている。

それが、この詩の題名の意味です。

【Eichendorfの詩 32-1】Liebe in der Fremde (異郷での恋)


【Eichendorfの詩 32-1】Liebe in der Fremde (異郷での恋) 

【原文】

Liebe in der Fremde

        1

Jeder nennet froh die Seine,
Ich nur stehe hier alleine,
Denn was fruege wohl die Eine:
Wen der Fremdling eben meine?
Und so muss ich, wie im Strome dort die Welle,
Ungehoert verrauschen an des Fruehlings Schwelle.


【散文訳】

異郷での恋

誰もが、彼女を悦んで彼の恋人と呼ぶ
わたしは、ただ、ここに一人いるだけだ
何故ならば、彼女はきっと、こう質問するだろうからだ
余所者が、誰を愛するというの?
そして、わたしは、あそこで波が流れるように
だれにも聞かれることなく、ざわざわと流れさる以外にはないのだ
春の閾(しきい)のところで


【解釈と鑑賞】

アイヒェンドルフは、いつも報われぬ恋を歌います。

これも、話者は旅人で、異郷で女性を好きになるという舞台設定です。

この題の詩は、この詩も含め全部で4篇の詩から構成されています。

この詩は、その最初の詩です。

Wenn etwas leicht(何かが軽く):第18週 by Gottfried Benn(1886 - 1956)




Wenn etwas leicht(何かが軽く):第18週 by Gottfried Benn(1886 -  1956)





【原文】

Wenn etwas leicht

Wenn etwas leicht und rauschend um dich ist
wie die Glycinienpracht an dieser Mauer,
dann ist die Stunde jener Trauer,
dass du nicht reich und unerschoeplich bist.

Nicht wie die Blüte oder wie das Licht:
in Strahlen kommend, sich verwandelnd,
an ähnlichen Gebilden handelnd,
die all nur der eine Rausch verflicht,

der eine Samt, auf dem die Dinge ruh'n
so strömend und so unzerspalten,
die Grenze zieh'n, die Stunden halten
und nichts in jener Trauer tun.


【散文訳】


何かが軽く

何かが軽くあり、そしてお前の周囲でさやさやと音をたてているならば
この壁にある藤の花の壮麗であるように
そうであれば、あの悲しみの時間だ
お前が豊かではなく、そして無尽蔵だということの

満開の花のようにではなく、または光のようにではなく
光線の中をやって来て、変身しながら
様々な類似の姿を少しづつとりながら
その姿たちは、すべてただ、一つの陶酔が編むものだ

ひとつのビロードは、その上に事物が憩っているのだが
事物は、かくも滔々と流れて、かくも割れることなく
境界線を引き、時間を維持し
そして、あの悲しみの中で、何もしない



【解釈と鑑賞】


この詩人のWikipediaです。



ドイツの有名な詩人です。


このドイツ語詩のカレンダーは、去年もこの詩人の詩を採録しておりましたから、編者はこの詩人が好きなのかも知れません。


何を歌っているのか、不可思議な、或いは不可解な詩です。

第2連最後の陶酔と、第3連最初のビロードは、同じものを指しているのかも知れません。即ち、陶酔がビロードであるという解釈です。勿論、別のものとして理解することも、有り得ますけれども。

感情としては、悲しみの感情を歌った詩ということになるでしょう。

2013年4月14日日曜日

【西東詩集41】 Unvermeidlich(不可避)



【西東詩集41】 Unvermeidlich(不可避)


【原文】

Unvermeidlich

WER kann gebieten den Voegeln
Still zu sein auf der Flur?
Und wer verbieten zu zappeln
Den Schafen unter der Schur?

Stell ich mich wohl  ungebärdig
Wenn mir die Wolle kraust?
Nein! Die Ungebaerden entzwingt mir
Der Scherer der mich zerzaust.

Wer will mir wehren zu singen
Nach Lust zum Himmel hinan,
Den Wolken zu vertrauen
Wie lieb sie mirs angetan?


【散文訳】

不可避

誰が鳥達に命じることができようか
平地に静かにしていなさいと
そして、羊毛をかるときに、誰が羊に
四肢を揺り動かすことを禁じることができようか?

わたしは、無作法な振る舞いをしているとでもいうだろうか
もしわたしの髪の毛がもじゃもじゃとしていれば
いや、そんなことはない!わたしを皺くちゃにする床屋が
無作法を無理矢理わたしかに強いるのだ。

天国への歓喜に向かって
わたしが歌を歌うことを、だれが止めさせようと思うのか
雲達を信頼することを(誰が止めさせようと思うのか)
歓喜がわたしにどのように愛(いとお)しくしれくれることを(だれが止めさせよと思うのか)


【解釈】

詩を歌うことを止めることができないこころを歌った詩です。詩の題名の通りです。

第2連の譬喩(ひゆ)にはユーモアもあります。ゲーテという詩人のこころも、少し余裕を取り戻したのでしょう。

2013年4月13日土曜日

All Dein Glucke(お前の総ての幸福):第17週 by Peter Ruehmkorf(1929 - 2008)




All Dein Glucke(お前の総ての幸福):第17週 by Peter Ruehmkorf(1929 -  2008)


【原文】

All dein Glück

All dein Glück wie nie gewesen,
aller Scherz wie nicht von hier,
und da möchtest du es schon mal lesen,
dass es jemandem so ging wie dir.

Ganz genau so unbegründet
mittens aus der Fahrt zu Fall -
Dass ein ich sein Echo findet
in dem sterneleeren Ueberall.

Wie ein Lied aus bessern Tagen
streift dich der Gefangenen Chor -
Ausgesprochene Versagersagen
reissen den Gestrauchelten empor.

Oder du auf deiner Einmannliege,
nachts, auf dem verrutschten Tuch,
wirst du deiner Einigkeit gewahr -
und es wäre schon gut, wenn jetzt ein Buch
über dir zusammenschlüge
wie ein lichtgesäumtes Flügelpaar



【散文訳】


総てのお前の幸福

どこにも無かったような総てのお前の幸福
ここから発したのではないような総ての冗談
そして、そうすると、お前はもう読解したくなる
お前に起こったように、誰にでも起こったのだと。

全く精確にそのように根拠なく
まん中で、乗り物から落ちて
わたしなる者(一個のわたし)が、自分の木魂(こだま)を見つけるということ
星々の無い至る所に

よりよい日々から生まれる歌のように
お前を、虜囚の合唱が、なでる
明白なる不発弾(失敗者)のもの言いが
足を踏み外した者(失敗者)を、高く引きちぎる

或いはまた、お前は、お前の一人用の寝椅子上で
夜には、服の外にはみ出した布(織物)の上で
お前は、お前はお前だということに気づく
そして、今やお前についての一冊の書物が
閉じられるならば、それは、言うまでもなく、よいことだろう。



【解釈と鑑賞】


この詩人のWikipediaです。



ドイツの詩人です。

プロテスタントの牧師の娘として生まれた女性が、未婚で生んだ子供が、この詩人でした。

この出生から行って、苦しみの多い、抑圧の多い、人生の始まりだったことでしょう。

しかし、この詩は、実にいい詩だと思います。


強烈にこの詩人の人間が表現されている詩です。語彙の選択と配列にそのことがよく現れています。


注目すべきは、お前と呼びかけているその当人を、書物と書物を読むということの譬喩(ひゆ)で捉えていることです。

人間もまた一冊の書物であるということは、その通りであると思います。






【Eichendorfの詩 31】Schoene Fremde (美しき見知らぬ婦人)


【Eichendorfの詩 31】Schoene Fremde (美しき見知らぬ婦人) 

【原文】

Schoene Fremde

Es rauschen die Wipfel und schauern,
Als machten zu dieser Stund
Um die halbversunkenen Mauern
Die alten Götter die Rund.

Hier hinter den Myrtenbaeumen
in heimlich daemmernder Pracht,
Was sprichst du wirr wie in Traeumen
Zu mir, phantastische Nacht?

Es funkeln auf mich alle Sterne
Mit gluehendem Liebesblick,
Es redet trunken die Ferne
Wie von kuenftigem, grossem Glueck!


【散文訳】

美しき、見知らぬ婦人

木々の梢(こずえ)が、さやさやと鳴き、戦(おのの)いている
恰も、この時に
半分沈んだ壁を巡って
古い神々が団欒しているかのように。

ここ、ミルテの木々の後ろで
密やかに暮れ行く荘厳の中で
お前は何を迷って夢の中でのように話をしているのか
このわたしに、幻想的な夜に

わたしに向けて、すべての星々が瞬いている
輝く愛の眼差しを以て
陶然として、遠さが語っている
未来の、大きな幸福についてのように!


【解釈と鑑賞】

題名は、美しき見知らぬ婦人ですが、この詩を読むと、この婦人とは、第3連、最後の連に出て来るdie Ferne(女性名詞)、遠さのことであるかも知れません。

とすると、これは随分と抽象的な詩だということになります。

或いは、解釈によっては、遠さを擬人化して歌を歌ったということになるでしょう。

しかし、擬人化というよりは、既に『夜というもの』(Die Nacht:http://shibunraku.blogspot.jp/2013/03/eichendorf-28die-nacht-die-nacht-wie.html)という詩のところで書きましたが、die Minne、ミンネ(愛の)婦人という、中世の言葉と同じように、それはもはや擬人ではなく、一個の独立した生き物として、人間のように、ここにあり、そこにあるということなのだと思います。

アイヒェンドルフの詩が、如何に言語と人間にとって本質的なものであるかがわかると思います。

2013年4月6日土曜日

【西東詩集40】 Dichter(詩人)



【西東詩集40】 Dichter(詩人)


【原文】

Dichter

Die Liebe behandelt mich feindlich!
Da will ich gern gestehn,
Ich singe mit schwerem Herzen.
Sieh doch einmal die Kerzen,
Sie leuchten indem sie vergehn.
        *
Eine Stelle suchte der Liebe Schmerz,
Wo es recht wüst und einsam wäre;
Da fand er denn mein ödes Herz
Und nistete sich in das leere.



【散文訳】

詩人

愛は、わたしを敵対的に取り扱うのだ!
それなら、わたしは、よろこんで告白しよう
わたしは、重いこころを以て歌うのだ
蝋燭を見よ
それらは、過ぎ去って行くことによって、明るく燃えている。
        *
ある場所を、愛の苦しみは求めるのだ
そこでは、まさに、荒涼として、孤独であるかも知れぬ
そこに、苦しみは、わたしの荒涼たるこころを見つけた
そして、空虚の中に巣をつくったのだ。


【解釈】

これは、詩人の独白ということになるでしょうか。独白であれば、気分は、前の詩から続いているということになります。

これらの詩は、既にこれまで歌われた愛の歌の、何か半面を、詩人の独白として歌っているように見えます。

この詩の収めてある愛の巻は、単純に青春の詩ではなく、老年の詩人の愛の詩なのでしょう。

この詩は、このままに受け取る以外には、ありません。

Das Paradies(天国):第16週 by Emily Dickinson(1830 - 1886)





Das Paradies(天国):第16週 by Emily Dickinson(1830 -  1886)


【原文】

Das Paradies

Ich wohne in der Möglichkeit−
Und nicht im Prosahaus–
An Fenstern reich und heller−
Mit Türen - ein und aus -

Mit Zimmern hoch wie Zedern−
Von keinem Blick durchschaut−
Als ewges Dach der Himmel−
Die Giebel drueber baut−


Besuch - der allerschönste -
Beschäftigung - nur Dies -
Ich spreiz die schmalen Hände weit
Und fass das Paradies.



【散文訳】

天国

わたしは、可能性の中に住んでいる
そして、散文の家の中に住んでいるのではない
窓辺は、豊かで、より明るく
扉は、出たり入ったりしている

部屋部屋は、高く、ヒマラヤ杉のようで
誰の視線にも透視されない
永遠の屋根としてある天
天の上にある破風屋根が建てるのは

訪問―最高の訪問
仕事―ただこれだけ―
わたしは、細い両の手を向こうへと開げて伸ばす
そして、天国をつかまえる。


【解釈と鑑賞】


この詩人のWikipediaです。



アメリカの有名な詩人です。


第3連の訪問と訳した言葉は、来客と訳すことも可能です。こちらが訪問するのか、それとも来客を迎える訪問なのか。

第1連に、散文の家に住んでいないと言っていますので、これは、詩文の世界のことを歌った詩だということになるでしょう。

この詩人の、詩の形象(イメージ)を歌った詩だということになります。

原文ドイツ語に詩の題名がありませんでしたので、この詩の最後の言葉をとって、題名としました。


追記:
花谷紫月さんのご指摘により、この詩人の原詩(英文)のある場所がわかりましたので、リンクを明示します。原詩と比較をして、読まれるのも一興かと思います。

http://en.wikisource.org/wiki/I_dwell_in_Possibility_%E2%80%94

【Eichendorfの詩 30】Taeuschung (幻惑)


【Eichendorfの詩 30】Taeuschung (幻惑) 

【原文】

Taeuschung

Ich ruhte aus vom Wandern,
Der Mond ging eben auf,
Da sah ich fern im Lande
Der alten Tiber Lauf,
Im Walde lagen Truemmer,
Paläste auf stillen Hoehn
Und Gärten im Mondesschimmer-
O Welschland, wie bist du schön!

Und als die Nacht vergangen,
Die Erde blitzte so weit,
Einen Hirten sah ich hangen
Am Fels in der Einsamkeit.
Den fragt ich ganz geblendet:
>>Komm ich nach Rom noch heut?<<
Er dehnt' sich halbgewendet:
>>Ihr seid nicht recht gescheute!<<
Eine Winzerin lacht' herueber,
Man sah sie vor Weinlaub kaum,
Mir aber ging's Herze ueber-
Es war ja alles nur Traum.


【散文訳】

幻惑

わたしは、旅を終えて、休んでいた
月がまさに上がると
遠くの土地に
ティーバー河の流れを見た
森の中には、瓦礫が横たわっていた
静かな山の高にある数々の宮殿
そして、月光の中にある数々の庭が
ああ、ヴェルシュランド、お前はどんなに美しいことか!

そして、夜が過ぎるとき
大地は、かくも遥かに煌(きら)めいた
わたしは、ひとりの羊飼いが
孤独の内に、岩にぶらさがっているのを見た。
全く眼が眩(くら)んで、羊飼いに、わたしは尋ねる
「わたしは今日中にローマへ行けるだろうか?」
羊飼いは、半分からだをこちらに向けて伸ばしながら、答えた
「お前さんたちは、本当に嫌われているわけではないさ!」
女の葡萄園主が、それを笑ってよこした
葡萄の葉むらの前に彼女をほとんど見ることはなかった
しかし、わたの心臓は溢(あふ)れた
なるほど、全ては単なる夢であった。


【解釈と鑑賞】

ティーバー河も、ヴェルシュランドもイタリアの河と土地の名前です。

これは、アイヒェンドルフの実際に見た夢でしょうか。そうだとしてもよし、そうでないとしてもよし。

第1連は、いつものアイヒェンドルフの世界です。

第2連、これも不思議な世界です。羊飼いが岸壁にぶら下がっていたり。また、その羊飼いとの奇妙な会話も。

女の葡萄園主が、それを笑って、その笑いを話者に送ってよこす。この女葡萄園主の様子が、

葡萄の葉むらの前に彼女をほとんど見ることはなかった

というこの一行は、幾つかの解釈が可能です。

1。この葡萄園主が、葡萄の葉叢とほとんど一体になっているということ
2。この葡萄園主が、葡萄園の仕事をほとんどしないということ
3。文字通りに、この葡萄園主がいたのは、葡萄の葉むらの前にでは、ほとんどなかったということ

この一行の前の

女の葡萄園主が、それを笑ってよこした

という一行と併せて読むと、やはり不思議な、夢幻の感じのする二行になっています。何か現実的な意味というものを喪失している二行と見えます。

これが、アイヒェンドルフの詩の味わいなのです。